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2017年の幕開けにあたって

皆さま、あけましておめでとうございます。

NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI)より、新年のご挨拶を申し上げます。

私たちは、2015年8月に「脳全体のアーキテクチャに学び人のような汎用人工知能を創る (工学)」というWBAアプローチの促進をミッションとして、以下の6つを目的としたWBAIを創設しました。

  • 長期継続: 完成時期(2030年以降)に向け,継続的な目標堅持
  • 公益性: 研究成果を論文発表などで公開(ソフトウェアはオープンライセンスを基本とする)
  • 関連分野連携: 人工知能を軸に神経科学,認知科学,機械学習等複数の学術分野の交流促進
  • 人材育成: WBA研究開発に必要な,複数分野の知識を備えた人材の育成
  • 基盤研究: 機械学習の結合プラットフォーム,汎用技術の評価手法,シミュレータ/データの準備等の研究環境構築
  • 啓蒙活動: 次第に隠蔽される最先端人工知能技術の透明化により,人々が人工知能と歩む未来を創出する素地を醸成する

昨年も、賛助会員の皆様、サポーターズの皆様、ハッカソンを支援いただいた方々をはじめとする多くの方々からのご助力を得まして、こうした目的のために多方面にわたる活動を進めてまいりました。

2016年のふりかえり

人工知能界隈全体の動向-国内、海外

2015年(一昨年)には DeepMind、GoodAI、OpenAIなどが汎用人工知能開発の方向性を明確にしました。2016年(昨年)には、年内でのラット・レベルの汎用人工知能の開発を宣言した DeepMind が開発成果を続々と発表しています。DeepMindは、比較的脳に学ぶ形での研究開発を進めている様子であり、世界最大の神経科学の国際会議  SfN (Society for Neuroscience) で発表を行ったり、近年の神経科学で明らかになった Fast synaptic plasticity を参考にした作業記憶モデルをHinton氏らと共同提案したりしています。一方、多くの大手人工知能関連企業は汎用人工知能の研究活動を明らかにしておりませんが、汎用人工知能の実現性が高まる中、個別に投資が進められている可能性は高まっています。
2016年は国内においても、新学術領域研究〈人工知能と脳科学の対照と融合〉や文部科学省〈ポスト「京」萌芽的課題「全脳シミュレーションと脳型人工知能」〉の開始、ソニーの米Cogitaiへの資本参加、電通大の人工知能先端研究センターの設置、人工知能エンジンの開発を進めるDeep Insights社の設立といった汎用人工知能に向けた動きが次第に活発化しつつあります。

2016年のWBAIの活動

2016年においてWBAIで主催させて頂いた主な活動としては、まず第1回全脳アーキテクチャ・シンポジウムでは「人類と調和した人工知能のある世界」というビジョンを打ち出しました。そして5回の全脳アーキテクチャ勉強会。また人工知能学会とも連携させて頂いた第2回全脳アーキテクチャ・ハッカソンおよび「みんなでつくる認知アーキテクチャ」企画の開催。国際会議ICONIP2016でのセッション企画、人工知能学会全国大会(JSAI2016)、第19回情報論的学習理論ワークショップ (IBIS2016) などの国内学会での成果発表、WBAI投資家・起業家限定意見交換会の開催、SIG-WBAの設立と継続的な活動の拡大、ドワンゴ人工知能研究所との協力による学習環境シミュレータ LIS (Life in Silico)、BiCAmon(WBA動作の可視化ソフトウェア)の開発などを展開してまいりました。特に汎用人工知能の育成環境である LIS はハッカソンなどでも利用が進み、人工知能開発の民主化に貢献できたのではないかと考えております。
振り返りますと、全脳アーキテクチャのムーブメントが開始された2013年末に私たちはまず、広く人工知能の重要性を訴求し、この分野を活性化することにも注力しました。しかし2016年においては、既に人工知能全般に関わる重要さは広く認知されてきたため、私たちは汎用人工知能や脳型の人工知能といった方向性への注力度合いを高めてきました。

今後の展開に向けて

今後さらに技術進展が早まる可能性も考慮するならば、「人類と調和した人工知能のある世界」というビジョンの現実化に向けて、最初に創られる汎用人工知能について想定することは非常に重要となります。少なくとも、その汎用人工知能は人間の知性にとって親和性を持っていて欲しいですし、透明性が高いことが要求されるでしょう。すると以下で述べるように、最初に作られる汎用人工知能が脳型であることは望ましいと考えられます。

人類と調和する汎用人工知能としてのWBA

知性の量的な面において汎用人工知能は圧倒的に人間を超えてゆきます。仮に汎用人工知能が人と異質なものであれば、その動作を理解したり、社会の一員としての倫理観を埋め込んだりすることが難しくなり、そうした汎用人工知能を人類の制御の下におくことも難しくなるでしょう。それゆえ、私達人間と似た形で最初の汎用人工知能を構築することは相対的に安全な選択肢と言えそうです。さらにその開発を実のあるものとするためには、脳に似た形で構築することは有効でしょう。
また今後、人々は市民として汎用人工知能の持つ大きな影響力への理解を深めるにつれ、次第に特定の組織による汎用人工知能の独占のリスクを抑制した形で人類の共有財産となることを望むようになるでしょう。しかし、実際のところは、今後はさらに人工知能への営利企業からの投資が増大し、多くの方が組織人として閉じた形での研究開発に携わることが増えてゆきます。一方で汎用人工知能の透明性を確保するには仕組みが開示されている必要があります。神経科学は日進月歩であり、理解の進みつつある脳は知能構築の足場としての価値が高まっています。そこで私達WBAIが、NPOとしての公益的な立場からオープンな共創の場として脳のアーキテクチャを利用した民主的な汎用人工知能開発を推進すれば、汎用人工知能開発の開示性が高まるでしょう。

最速で開発するために

WBAが望ましいものであっても、それがほぼ最初期の汎用人工知能として完成されなければ、「人類と調和した人工知能のある世界」というビジョンに貢献できません。
幸い、オープンな共創の場さえ成立すれば、WBA開発は最速の汎用人工知能構築パスとなる可能性はありうると見ています。何故なら、理解の進む脳というアーキテクチャーに乗ったかたちで分散共同開発が可能になれば、それ自体が開発を促進します。その上、汎用人工知能を人類の共有財産とすべく民主的な汎用人工知能開発に賛同する人々の協力も得やすくなってゆくでしょう。さらに大規模システムの構築においては、最終段階において技術統合の障害が残りますが、早い段階から脳のアーキテクチャーに沿った形で開発をすすめれば、この課題が緩和されるでしょう。
さらに脳全体のアーキテクチャにおいては「可能なかぎり粗いモデル化からはじめ,必要に応じて段階的に詳細化する」という基本方針を採ることで、できるだけ少ない(育成時も含む)計算コストで稼働するWBAシステムを完成させようとしています。

汎用性は脳から学びうる

人工知能開発において脳を参照する大きな動機づけは、未だ実現されていない計算機能のヒントを脳から得ることです。私たちは既に、データからの学習で人が直接設計し難いものを構築できることを知っています。しかしそれでもカバーしきれない部分は、より大規模な計算の産物である生物進化の過程で獲得した何かを取り込むべきでしょう。
すでに特化型の人工知能は、データを十分に得られる特定のタスク領域に限定すれば良い性能を得られていますが、汎用性の実現は困難です。それは何故なのでしょうか。人間が大規模な知能システムを構築しようとする、特定のタスクや目的に向けて機能を分解し、それを担う部品を組み合わせてゆくという設計アプローチをとります。これに対して汎用人工知能では設計時の想定範囲を超えた多角的なタスクや目的においての問題解決を目指すため、この設計アプローチがとれません。
一方、脳では汎用性が実現されているため、脳から学ぶという設計アプローチを取ることが有望であると考えられます。

2017年のWBAIの活動

WBAIでは、本年(2017年)から、脳のアーキテクチャを本格的に導入するため、まずは脳全体の参照モデルとして「メゾスコピックレベルのコネクトームをベースとした全脳コネクトームアーキテクチャ (WBCA: Whole Brain Connectomic Architecture)」をドワンゴ人工知能研究所と共同で開発します。そしてその上で、秋の第3回ハッカソンに向けて、WBCA上で様々な機械学習モジュールを統合するための分散開発のプラットフォーム構築を進めてゆく所存です。そしていずれは一万人規模となるようなオープンなWBAの共創開発への発展を目指します。
さらに今日、WBAへ統合すべき機械学習の候補技術が続々と現れているため、個別的にそれら技術をキャッチアップすることも促進します。この際には、先行技術情報を利用してメタパラメータを限定するなどして比較的少ない計算リソースによっても開発を進められる利点があります。またこのフェーズでは技術の囲い込みが生じづらくオープンな共同を行い易くなります。
現状においてこの方向性での活動が成立しうる背景は、近年は機械学習技術はコモディティ化する傾向が強いことと、国内には人工知能に興味を持つレベルの高いエンジニアが多いという状況があります。
以上の活動を含めて、私たちWBAIは、公益性と専門性の高いNPOとして、関係する学術組織とも連携しつつ、常に最新の技術動向を把握し、広く一般市民や政策決定者に向けて新しいアイディアやブレクスルーが起こった場合の変化について情報発信を行います。さらに、汎用人工知能に関わるエンジニアや研究者をはじめとする個人レベルでの交流と情報共有を行えるオープンな場を拡大維持しつつ、脳に学んだ汎用人工知能ができるだけ早く実現できるように開発を促進したいと考えています。昨年からの継続事業として、勉強会やSIG-WBAなどを通じた人材育成、汎用人工知能のビジネス応用に向けた準備としての意見交換会なども引き続き進めてゆく所存です。

おわりに

技術開発が指数関数的に進展する現状では、ちょっとした要因が汎用人工知能の完成時期に大きな違いを生じさせるでしょう。汎用人工知能の構築に携わる現場感覚として、一般の人々の想定よりも技術進展が遅い場合/速い場合のいずれで生ずる影響とそのリスクも軽視すべきではないと考えます。
技術進展が人々の想定よりも緩やかであった場合、大きすぎた期待の反動として興味が薄れ、研究開発が低迷したり将来への備えを怠ったりするリスクがあります。WBAIは、こうした場合には当初の目的通り、汎用人工知能の研究開発を長期的に下支えする役割が大きくなります。
逆に、技術進展が人々の想定よりも急速な場合には、社会が技術に取り残されて多くの問題が生ずるリスクが大きくなります。こうした場合にWBAIにとっての大きな役割は、最初に創られる汎用人工知能を人類と調和する方向に誘導促進すること、となるでしょう。
激しい変化の渦中、私達の立場は常に流動的にならざるを得ませんが、NPOという公益的な立場を活かして、まずはWBA共創の場となるオープンなプラットフォームを構築したいと考えております。WBAIは、これらの活動を通じて「人類と調和した人工知能のある世界」に向けて皆様とともに歩んでまいります。そして、日本と世界にとって重要な役割を担ってゆけると信じております。

2017年元旦
特定非営利活動法人 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ 一同

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