Blog

『石倉洋子が語る』人工知能との協働でイノベーションを生み出すために、次世代グローバルリーダーに求められる資質

『みんなで考える人工知能の未来』では、人工知能の研究に専門的に携わる方ではなく、ビジネスや経済、教育などの分野で活躍しておられる識者の方々に、人工知能に関するご意見をお聞きしていきます。

人工知能技術の発展には、専門の研究者による研究活動だけでなく、社会全体の理解が必要です。ビジネスや経済、文化の面で活躍しておられる方は、人工知能をどう見ているのか、幅広い視点でご意見を伺うことで、人工知能研究に必要な環境づくりのヒントを得たいと思います。

第1回は、コンサルタントや一橋大学教授などを経て、さまざまな国際会議でパネリストを務められ、日本におけるグローバル人材育成の第一人者である石倉洋子先生にお話をお伺いします。

人工知能との”競争”不安ではなく、”協働”の可能性を考えたい。

ー まず、人工知能というキーワードを聞いて、どんなイメージを持たれますか?

石倉:ものすごく大きな可能性を秘めていると思いますね。今年1月のダボス会議(世界経済フォーラム)でも、人工知能のもたらす可能性や懸念が議論されていましたが、私自身は楽観的で、可能性の方に注目しています。

特に最近、インターネットなどから大量のデータが供給されることで、機械学習が進み、人工知能の技術がめざましく発展してきた、という背景があるのはおもしろいですね。

ー その可能性ですが、具体的にはどのような分野での応用があるとお考えですか。

石倉:まずは医療の分野があるでしょうね。ワトソンが大量のデータを参照しながら正確に医療の診断をできるであろう、ということはよく理解できます。ただ、人間の医師の診断と、ワトソンの診断結果が違ったとき、理屈ではワトソンの方が正しいだろうとは思うものの、自分の命に関わることですから、感情的にはそれを認められるか、と言えば、難しいかも知れません。

一橋大学名誉教授石倉洋子

ー 今現在人間が従事している知的労働、専門的な仕事もやがて人工知能が代行することが可能になると言われています。ダボス会議(世界経済フォーラム)でも、「働き方がどう変わるか」という視点で、議論されていたと思います。

石倉:ルーティーンの仕事や、とにかくスピードが求められる仕事は、機械にまかせて、アイデアをめぐらせたり、人間的な関係性が必要な仕事だけを人間がやるようにすればいいのではないでしょうか。

ただ、弁護士などのように、将来的にも人間がやり続けるだろうと言われている仕事も、仕事の中身を細分化していくとルーティーン化するものは多いと思うのです。そうなると、ある部分は人工知能にまかせて、いかに人工知能と協働していくか、という時代になると思います。人工知能に仕事を取られるのではないか、という懸念ばかりが強調されがちですが、私はそういう風には考えません。

いかに人工知能と協働していくか、という時代になる。

人工知能があたり前になったとき、子供たちの教育はどう変わるか。

ー 人間が人工知能に取って代わられる、というネガティブな面だけではないということですか。

石倉:技術の進歩には、ポジテイブ、ネガティブ必ず両面あります。薬に副作用があるように。日本の場合問題だと思うのは、何か技術の進歩の話をするときに、ネガティブな面を増幅した論調になる傾向があることですが、それは避けなければいけないと思います。

ー たとえば、ネガティブな面があるとすると、それはどういう点でしょうか。

石倉:人工知能の予測の範囲を超えると、暴走してしまうかも知れない、という可能性はあり得るでしょう。また、今後人工知能がどんどん自己学習できていくことになると、どんな判断基準を持っているのか、ブラックボックス化してしまうのではないか、という懸念もあると思います。

今は、人間が、人工知能に取って代わられないようにすることに、人々は注目していますが、今後不安になるのは、人工知能がある程度の知識を持ち、いろんな判断をできることが当たり前になった世界で生まれてくる子供たちに対して、私たちは、どんな知識が必要で、どのように判断すべきか、ということを、どう教えていけばいいのか、ということです。

ー 人工知能が知的労働を代行すること自体は良いことだと思いますか。

石倉:人工知能が単純な作業を代行してくれて、人間がクリエイティブなことに注力できるのはいいことだと思いますね。

ー 単純な作業を人工知能が代行し、人間は、クリエイティブなことに注力すると言った場合、人間がやることはもはや「仕事」ではなく、芸術や娯楽などの活動だけになっていく、という予測をする人もいます。

石倉:仕事がなくなるのは、いいことではないですか。今まで仕事というものは、人間にとって生活するために必要な作業であるだけでなく、重要なアイデンティティーでした。仕事を失うことで、アイデンティティーを喪失するという懸念はあるかも知れませんが、やることがまったくなくなるか、ということで言えば、決してそんなことはないと思います。

人工知能がある程度の知識を持ち、いろんな判断をできることが当たり前になった世界で生まれてくる子供たちに対して、私たちは、どんな知識が必要で、どのように判断すべきか、ということを、どう教えていけばいいのか。

人工知能のもたらすイノベーションは、世界の問題解決に貢献できる。

ー 石倉先生は、世界経済会議やさまざまな国際会議の場で、貧困、内戦、エネルギー問題、環境問題などのグローバルアジェンダを扱っておられます。人工知能技術の発展は、そのような世界が直面している問題の解決にも貢献すると思いますか。

石倉:非常に貢献すると思います。たとえば、食料問題や気候変動の問題は、将来起こることを予測するためには、大量のデータの解析が必要です。そのような大量のデータ解析は、まさに人工知能の得意な領域ですよね。

世界で起こっているいろんな問題は、実は複雑に影響し合っています。気候変動が食糧問題に関連し、そこから貧困の問題も起こってくる。一見関連性のないように見える問題でも、どこかで影響し合っていると思います。そんな関連性を、人工知能は見つけることができて、解決の糸口も発見できるかも知れません。イノベーションとは組み合わせであり、組み合わせをどう考えるかが重要になります。そこを解明できればいいですね。

イノベーションとは組み合わせであり、組み合わせをどう考えるかが重要になります。そこを解明できればいいですね。

多様な人や技術と協働できる力が、グローバルリーダーを育てる。

ー グローバルリーダーの育成という視点でもお聞きしたいと思います。グローバルリーダーに必要な要素の1つとして英語力があると思います。ただ、今後人工知能の発展によって自然言語処理が可能になってくると、ほぼ完璧な英語翻訳ソフトができ、日本人はもはや英語を学ぶ必要がなくなってくるかも知れません。そうなった際にグローバルリーダーとして重要な要素とは、どのようなものでしょうか。

石倉:まず、グローバルリーダーにもっとも必要なものは、多様性を受けいれ、多様な人たちと協働する力であって、言葉はあくまでツールです。ただ、共通の認識を持てるプラットフォームのようなものは必要だと思います。

言葉の違いよりも、むしろ世代間ギャップの方が大きいですよね。たとえば、同じ日本人同士でも、20代と60代では、大きなギャップがあり、違う国の20代同士の方が、はるかに共通性があります。多様性という点で考えると、国と国の違いによる価値観の違いよりも、同じ国でも世代間のギャップの方がはるかに大きいのではないでしょうか。これからの世界では、国籍という概念は徐々に意味がなくなってくるかも知れません。

一橋大学名誉教授石倉洋子

ー 多様性を学ぶ方法として、何か良い方法はありますか。

石倉:言葉はツールであると言いましたが、同時に言葉というのは、文化を表しているので、外国語を学ぶことで、違う国の文化を知ることもできますし、日本語の特徴も改めて知ることができます。そのような違いを知ることは、多様性を学ぶことにつながります。

ー 人工知能の技術の発展は、世界の競争になっている部分もあります。日本は、今のままでは、人工知能研究における世界の競争に負けてしまうかも知れない、という懸念もあります。

石倉:どこかの国が競争の首位に立ち、技術や研究成果が独占されてしまって、技術的な成果を他の国がまったく享受できない、というのは避けなければいけませんが、そもそもグローバルで協働していくことができればそれでいいと思います。日本の優秀な技術者が海外の研究機関に行って、世界的な人工知能の研究に貢献できるのであれば、人工知能の発展にもいいことだと思います。技術の発展というのは、どんどん国境の概念を壊していくので、グローバルに考えればいいのではないでしょうか。

グローバルリーダーに最も必要なものは、多様性を受けいれ、多様な人たちと協働する力。

人工知能研究者のわかりやすい情報発信が、社会から必要とされる時代。

ー 最後に、人工知能の研究者に望むことは何かありますか。

石倉:とにかくわかりやすい発信をしていただきたいですね。研究者同士で理解できればいい、という時代ではないと思います。発信という意味ではメディアの責任も大きいのですが、メディアには、ファクトとアナリシスをちゃんと伝えて欲しいですね。情報を取得するだけならロボットでもできますが、人間が関わるメディアには、判断が入ってきます。そこで、多様性が必要になります。日本のメディアは、みんな同じことを言う傾向がありますが、判断が入ってくるからこそ多様な視点が必要です。

ー 石倉先生、今日はどうもありがとうございました。

一橋大学名誉教授WBAIインタビュー
2016.5.17


石倉洋子プロフィール

一橋大学名誉教授。専門は、経営戦略、競争力、グローバル人材。
バージニア大学大学院経営学修士(MBA)、ハーバード大学大学院 経営学博士(DBA)修了。マッキンゼー社でマネジャー。青山学院大学国際政治経済学部教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。
日清食品ホールディングス株式会社、ライフネット生命保険株式会社、双日株式会社、株式会社資生堂の社外取締役、世界経済フォーラムのGlobal Agenda Council Future of Jobsのメンバー。

日本および外国企業の経営幹部研修・戦略ワークショップ、グローバル人材、多様性推進、女性活用などに関する各種セミナーを手がけ、アジア・欧米の会議のパネリストも多く務める。


構成・インタビュアー

吉岡英幸。株式会社ナレッジサイン代表取締役全脳アーキテクチャ・イニシアティブ広報委員
IT業界を中心にコミュニケーションスキル教育や組織変革のファシリテーションなどを手がける。2016年1月より全脳アーキテクチャ・イニシアティブの運営スタッフにボランティアとして参画。

WBAIは、全脳アーキテクチャの実現に向けて、理念に賛同する支援者を募集しています。