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第24回 全脳アーキテクチャ勉強会~アブダクションー仮説生成する脳型人工知能へ向けて~

概要

科学にとって重要不可欠なアブダクション・仮説生成は、「人工知能駆動科学」の基礎でもあり、その射程は広い。しかしながら、その研究は他の推論形式である演繹(e.g. 論理学、数学)や帰納(e.g. 統計学、機械学習、科学哲学)に比べて遅れている。仮説の生成も、仮説空間が適切に設定できたとするならば、あとは探索問題といえよう。しかしながら、仮説を表現する言語が豊かであればあるほど、その探索範囲はたちまち巨大化し、手に負えなくなる。対して、これまでの科学の発展を考えただけで、脳は仮説生成を効率よく行っていることが分かる。脳が行うことをそもそも世界に関する仮説生成(限られた知覚と材料からのモデル構築)と考える立場が認知科学でも有力になってきており、脳から学ぶことは多いと期待される。本勉強会では、アブダクションを、制約を作ること、と一般化した上で、関連研究を紹介し、今後の研究プロジェクトの具体化に繋げたい。

勉強会開催詳細

  • 日 時:2018年11月29日(木) 17:30~19:50
  • 会 場:東京電機大学 東京千住キャンパス1号館2階 丹羽ホール
    〒120-8551 東京都足立区千住旭町5番(北千住駅東口(電大口)徒歩1分)
  • 定 員:200名
  • 主 催:東京電機大学 研究推進社会連携センター
  • 共 催:NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
  • 後 援:株式会社 ドワンゴ

プログラム

時間 内容 講演者
17:40 開会の挨拶 山川宏(全脳アーキテクチャイニシアティブ代表)
17:45 トップダウン制約からの強化学習と社会学習(資料 高橋 達二(東京電機大学 理工学部 情報システムデザイン学系 准教授)
18:05 仮説生成に向けた等価性構造抽出(資料 佐藤 聖也(東京電機大学 理工学部 情報システムデザイン学系 助教)
18:25 現代人工知能によって何が変わるのだろうか(仮) 前田 英作(東京電機大学 システムデザイン工学部 情報システム工学科 教授)
18:45 5分休憩
18:50 アブダクションは具体的に研究しうる〜遮蔽補完の計算論〜(資料 坂本 一寛(東北医科薬科大学 医学部 神経科学教室 准教授)
19:30 パネル討論 人間並みの仮説生成・検証の能力の実装の鍵とは?
19:50 情報交換会(懇親会) 会場:2F学食

トップダウン制約からの強化学習と社会学習

講演者: 高橋 達二(東京電機大学 理工学部 情報システムデザイン学系 准教授)

概要:人間や動物がある環境で学習を開始する際には、環境の構造や期待される報酬についての「予断」、「仮説」、あるいは基準をすでに携えていることが多い。例えば、保存の効かない餌の獲得量自体を最大化するのは単に無駄であり、その日に食べる分をどうやって速やかかつ楽に獲得し、後は安全の確保やメーティングなど他のタスクに専念すべきであろう。そのような場合には、純粋なボトムアップの試行錯誤からの行動系列の最適化という従来の強化学習アルゴリズムとは異なった探索と知識活用が行われることとなり、計算論的にも別種の分析とモデリングが必要となる。本講演では、満足化 (satisficing) という意思決定方策を、人間のリスク認知傾向と組み合わせることでシンプルな形で実現した Risk-sensitive Satisficing (RS) 価値関数が、トップダウンの制約を活かし、複雑な状況でも効率的な満足化あるいは最適化を実現しうること、またエミュレーション模倣学習など、人間の社会学習のいくつかの側面をモデリングできることを、 K本腕バンディット問題での詳細な解析と強化学習タスクでの結果により示す。

仮説生成に向けた等価性構造抽出

講演者:佐藤 聖也(東京電機大学 理工学部 情報システムデザイン学系 助教)

概要:仮説の生成は通常探索範囲が巨大であることが問題となるが、等価性構造抽出は探索範囲の絞り込みに有効である可能性がある。等価性構造抽出は複数の多次元系列データの次元の対応関係を発見する手法として提案された。例えば、2つの、多数の系列を持つモーションキャプチャーデータを用いた実験では、等価性構造抽出により妥当な対応関係が抽出された。ここで言う次元は手、肘、つま先等であるが、これらの対応関係がわかれば見まね学習等を行うことができる。近年等価性構造抽出のアルゴリズムの改良が進み、上述の実験は、以前は数時間かかっていたが、数分で抽出できるようになった。本発表では最新の等価性構造抽出の手法や応用を紹介するとともに、仮設生成に向けた等価性構造抽出について考える。


現代人工知能によって何がわかるのだろうか

講演者:前田 英作(東京電機大学 システムデザイン工学部 情報システム工学科 教授)

概要:人間の脳の働きを明らかにすることは多くの研究者の夢であった。この50年間、私たち人類はその夢にどれくらい近づいたのだろうか。深層学習に代表される現代人工知能の新しい情報技術が「科学」領域においてどのような役割を果たしうるのかは、まだ未知数の部分が多いであろう。


アブダクションは具体的に研究しうる〜遮蔽補完の計算論〜

講演者:坂本 一寛(東北医科薬科大学 医学部 神経科学教室 准教授)

概要:アブダクションとは、暗黙の仮定としての仮設を生み出す思考の型である。仮設は、(1)不完全な情報より得られるものの(2)仮設自体は直接観測できない。しかしながら(3)仮設があると様々な予測が可能となり、また(4)仮設自体は単純で美しいという性質を持つ。けれども、仮設を得るための実装法については、哲学書は、「洞察による」等と述べてあるに過ぎず参考にならない。本講演では、我々の視覚遮蔽補完の計算論を紹介する。推定・補完された形は(1)不完全な情報より得られるものの(2)補完された形自体は直接観測できないことを考えると、遮蔽補完問題は、アブダクションを具体的に研究する上でよい例題であると言える。これまでの遮蔽補完の計算論は、主に輪郭の局所連続拘束条件に基づくものであり、形全体の対称性に基づく補完が勝る場合を説明できなかった。本計算論は、大脳皮質V4野の性質、球面射影幾何学、パラメータ空間への投票としての神経配線の拡散・収束構造に基づき、(4)単純で美しい(=表現量が少ない)形が好まれるというメタ拘束条件を用いることにより、これまでの計算論の問題を克服することができた。


運営スタッフ

  • プログラム委員長:高橋 達二
  • プログラム委員:高橋 恒一(理研)
  • 実行委員長:横田 浩紀
  • 登壇者調整:横田 浩紀
  • 会場調整:深澤 武彦
  • 写真撮影:藤井 烈尚
  • 動画撮影:藤井 烈尚
  • connpass:藤井 烈尚

外部リンク

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