セミナー開催の経緯
汎用人工知能の研究者である山川宏氏が、シンギュラリティの本質が、「自律分散+多様化+局所的な競争」を基盤とする進化戦略の限界ではないかという見解をSNS上で発信しました(2019年12月12日)。これに対して、進化言語学者の岡ノ谷一夫氏らから、同時期に似たような見解にたどり着いているとのコメント、さらに、SF作家の長谷敏司氏をふくめ多くの方による議論が巻き起こりました。こうした議論のさなか中川裕志氏よりイベント開催の提案があり、山川宏氏、岡ノ谷一夫氏とともに「生命進化の終焉とシンギュラリティ後の世界」セミナーを2020年3月19日に開催する至りました。(参考FBスレッド: http://bit.ly/3725z8v )
開催にあたってのねらい:
生命における進化という戦略の基本要素は自律分散・多様化・局所的な競争の3つであるように見えます。つまり、多様性を高めた分散エージェントが自律的に活動し、局所的に競争することでて発展してきたと捉えられるでしょう。そして人類は生物学的進化を超えて、言語・社会・文明・技術などを加速度的に発展させてきました。
この進化戦略は、相対的に広い環境に置かれた個体やその集団が、環境からの脅威や圧力に抗して発展する際に有効に機能してきました。しかし、人類がその力を増すほどに、その副産物として、核戦争や気候変動を始めとする、人為的なリスクを増大させています。この不都合な事態の原因は、進化戦略の前提であった競争の「局所性」が破壊されることにありそうです。シンギュラリティ(技術的特異点)の本性は、むしろ進化戦略の限界であったのかもしれません。そうであれば、このリスクは、同様の戦略をとる、人以外の知的生命体やいずれ実現しうる高度AIにおいてすら不可避です。 そこで本セミナーでは、本当に局所性は破壊されることで進化戦略には限界が生ずるのか、そうであれば「自律分散」もしくは「多様化」という価値観を見直す必要があるのか、現状の進化戦略を超えた新たな発展の形が生まれるのかなどについて講演を行います。
さらに、今後ますます、グローバル化・複雑化・高速化が進む人類社会を維持してゆくために、より自律性を高めたAIシステムによる支援は不可避な前提となるでしょう。ですから高度AIとその知能爆発をリスク要因として捉えるよりも、大局的なリスクを乗り越えるために活用するという視点が求められます。そこで、セミナーの後半では開場の皆さんとともに、どのような能力を備え、いかなる価値基準観をもつ高度AIとともに、私達は未来に向かって歩みうるのかなどを含む議論を行いたく思います。
コンテンツ
- Video vol.1 (Japanese, English subtitled )
開会の辞: 岡ノ谷一夫
趣旨説明: 山川 宏
AI脅威論: 中川裕志 - Video vol.2 (Japanese, English subtitled )
進化終焉セミナ-戦略の終焉(山川): 山川宏 - Video vol.3 (Japanese, English subtitled )
言語の発生と進化の終わり: 岡ノ谷 一夫 - Video vol.4 (Japanese, English subtitled )
環境は創発する: 長谷敏司 - Video vol.1 (Japanese, English subtitled )
パネルディスカッション:
モデレータ 中川裕志、 パネリスト: 長谷敏司、山川宏、岡ノ谷一夫
再生リストはこちら
出演者一覧:
主催者
- 共催:NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
- 共催:新学術領域「共創的コミュニケーションのための言語進化学」
- 協賛:株式会社 オルツ ( 議事録システムのご提供による )
- 撮影・配信:一般社団法人ユーラシア国際映画祭
主な関連文献:
- ユヴァル・ノア・ハラリ, サピエンス全史:文明の構造と人類の幸福, 河出書房新社、2016年
- ユヴァル・ノア・ハラリ, ホモ・デウス:テクノロジーとサピエンスの未来, 河出書房新社、2018年
- Yamakawa, H. Peacekeeping Conditions for an Artificial Intelligence Society. Big Data Cogn. Comput. 2019, 3, 34.
- 山川 宏, 人間社会を支えるエコシステムとしての自律AI社会 – 存在論的リスクを克服するために –, シンギュラリティサロン#40 , 大阪, 2019年11月31日.