Blog

第7回全脳アーキテクチャ勉強会: 感情 〜我々の行動を支配する価値の理解にむけて〜

概要

AIが人と向き合う時,人間の意図や気持ちの理解は決定的に重要です.それには,もちろんAIが高い知能を持つことが必要ですが,それだけでは足りません.それと同時に,AIが人の感情や願望を理解できることも必要です.
一方で私達は日常,理性的に考えて行動すると思っています.しかし最近の脳科学は,そのような判断も結局はより価値の高い行動を選んでいるに過ぎないことを示唆しています.
感情とは,基本的な価値システムである情動に基づき,多様な場面の価値を派生的に計算するシステムであると思われます.その価値が行動を決めるという意味で,我々の行動は感情に支配されています.全脳アーキテクチャが目指す汎用AIにとって,その理解は重要です.
そこで今回は以下の点に注目し,専門家の方々を招いて勉強会を開催します.

  1. 感情はどういう機能を持って進化して来たのか.
  2. 感情と脳の情動系とはどういう関係にあるのか.
  3. 感情はいかにして工学として扱えるのか.

 

開催詳細

  • 日 時:2014年9月22日(月) 18:15~21:00(開場: 18:00~19:00)
  • 会 場:グラントウキョウサウスタワー 41Fアカデミーホール
  • 参加者:約200名人(スタッフ・関係者含む)
  • 主 催:NPO法人 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
  • 運 営:WBA勉強会実行委員会

 

講演スケジュール

時間 内容 講演者
18:15 オープニング(資料 大森隆司(玉川大学脳科学研究所)
18:30 感情の進化 -サルとイヌに見られる感情機能(資料 藤田和生(京都大学文学研究科)
19:10 情動の神経基盤 ~負情動という生物にとっての価値はどのように作られるか? 渡部文子(東京慈恵会医科大学)
19:50 休憩(10分)
20:00 感情の工学モデルについて ~ 音声感情認識及び情動の脳生理信号分析システムに関する研究 光吉俊二(agi)
20:40 パネルディスカッション 大森隆司(玉川大学)
Closing Remark

 

感情の進化 -サルとイヌに見られる感情機能


講演者:京都大学文学研究科(藤田和生)

概要: ヒトは感情の動物だといわれる。もちろんこれは、ヒトの行動を支配しているのは結局のところ感情だ、理屈ではわかっていてもどうにもならない、という嘆きを表現したものであるが、文字通りに受け取ると、これはヒトの感情過程の多様性を表したものともいえる。実際ヒトは、喜び、悲しみ、怒りなど、ある程度の生理的な裏付けのある基本的な感情の他に、愛、慈しみ、思いやり、恨み、妬みなどの種々の高次感情を示す。感情はまたヒトの大切なコミュニケーションのツールでもあり、ヒトどうしの関係構築の基本部分として機能している。この話題提供では、フサオマキザルとイヌに見られる他者の感情の読み取りならびにその適応的利用と、優しさや妬み、感謝などの高次(社会的)感情、及び第3者のやり取りの感情的評価などについて、実証的データを踏まえて考察する。

 

情動の神経基盤 ~負情動という生物にとっての価値はどのように作られるか?


講演者:渡部文子(東京慈恵会医科大学)

概要: 恐怖や痛みの不快感などの情動は、危険な場所や刺激を記憶するなど、我々の生存維持にとても大切な役割を担います。喜怒哀楽といった感情も、我々の個体保存や種保存に有利に働くよう発達したシステムであると思われます。しかし一方で、慢性痛や不安障害など、過度あるいは制御しがたい負情動は、日常の活動・思考を妨げることで我々の生活の質を損ないます。では、痛みがどのように苦痛という「負情動価値」に翻訳されるのでしょうか? このシンプルな疑問すら、実は未だ不明な点が多いのが現状です。その解明への糸口として現在我々は、様々な感覚情報に負情動価値を結び付ける扁桃体という脳領域に注目しています。そして侵害受容や損傷を苦痛へと変換する機能にも、この脳領域への入力が重要な役割を担うと考えています。本日のトークでは、情動依存的学習実験を中心に、情動の神経基盤に対する生命科学的アプローチを古典から最近の知見までを概説し、感情の神経科学的機構について話題提供できればと思います。

 

感情の工学モデルについて ~ 音声感情認識及び情動の脳生理信号分析システムに関する研究


講演者:光吉俊二(agi)

概要: 人の心や情動は今まで科学定量化の対象となりませんでした。また、「感情や情動がどこから来るのか?」という歴史的な論争の結論も出ていません。そして、感情が周囲の環境による影響で評価や感じ方が変わるという、感情の認知問題もあります。しかし、脳計測技術の発展により、現代では、従来の主観的な研究だけではなく、薬物投与や情動の影響を脳活動の計測により確認することが可能となりました。また、脳と心とホルモンの個別の研究が始まりました。私たちは、脳や心拍、ホルモン等の生理指標からパラメタを求め、生理信号の分析から心のメカニズムを解明しようと、音声と生理パラメタの比較を可能する手法を独自に開発し、心のメカニズムを工学的に解明するシステムの研究、開発を行いました。その結果、音声から情動の複雑な状態も可視化する感性制御技術ST(Sensibility Technology)を確立し、現在では様々な要途で使われています。また、私達が東京大学医学部で取り組んでいる、医療とその周辺分野に向けた新たな提案「音声病態技術(Pathologic condition analysis and Sensibility Technology)」についても紹介させて頂きます。