概要
全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI)は、人類社会と調和する汎用人工知能の実現を長期的に支えるために設立された非営利活動法人です。脳に学んだ汎用的な人工知能の研究開発を促進するためのさまざまな活動を行っています。
今回は「ことばの障害と脳」をテーマとした、複数チームの参加によるハンズオンを 9月17日に行います。今回のハンズオンでは、さまざまな失読症の症状を再現することを通じて健常者と脳損傷患者の脳とを総合的に説明するモデルを考えます。進化上、人間にしか持ち得なかった言語機能に光を当てることにより全脳アーキテクチャの解明と完成に向けた一里塚となると考えます。
神経心理学では読字機能を (1) 入力信号の処理系、(2) 運動出力系、(3) 意味処理系の3者の結合と相互作用として考えます(下図)。
左図 Lichtheim (1885), 右図 Seidenberg and McClelland (1989)
本ハンズオンの各チームは、複数の言語課題を解くための計算モデルに損傷を加えることにより、失語症(失読症)患者の示す症状をシミュレートすることを目指します。具体的には、ニューラルネットワークによって構成された訓練済みの読字モデルを健常者の脳と捉え、このモデルを部分的に破壊することで3種類の失読症のタイプ(音韻失読、表層失読、深層失読)を再現することを目指します。
入力は単語文字列とし、出力は音素系列とします。視覚野に提示された文字列が音声として出力される過程をシミュレートしたモデルに対して、(1) 一貫語と非一貫語(注1)、(2) 実在語と非実在語、(3) 高頻度語と低頻度語の区別、(4) 語のカテゴリー特異性により課題成績に差が認められるか否かを検証することを目指します。
開催情報
- 日時:
- 説明会
2018年9月1日(土)10:30-12:30
ハンズオン参加希望者は説明会に参加をお願いします - ハンズオン
2018年9月17日(月) 10:30-18:30
- 説明会
- 場所:φカフェ (https://phi.cafe/)
東京都文京区本郷5丁目24-5 角川本郷ビル6階
説明会と当日の両日ともに同じ会場です。
- テーマ: 多様な失語(失読)症状の理解
- 応募:こちらのフォームから申し込みください。
応募資格
- Pythonの使用経験があること(Python 3.6を使用します)
- 機械学習について基本的な知識があること
体制
日程
- 7月30日:ハンズオン募集の開始
- 8月13日:ハンズオン申し込み〆切
- 8月17日:ハンズオン採択通知:
- 9月1日:事前説明会&ソースコード公開(タスクの説明もGithub上で公開)
- 9月17日: 当日
審査
以下の基準で審査を行います。
- Functionally General: 三種類の失語症を一つのモデルで説明できること
- Biologically Plausible: 脳に近い形での拡張はWelcome
- Computationally Simple: 必要以上に複雑化しないこと
- 深層失読については、動物と非動物の二重乖離の再現 (注2)
- 音韻失読と表層失読については、一貫語、非一貫語の区別、実在語、非実在語の成績の再現
文献
- Lichtheim, Ludwig. 1885. “On Aphasia.” Brain, 433–84.
- Seidenberg, Mark S., and James L. McClelland. 1989. “A Distributed, Developmental Model of Word Recognition and Naming.” Psychological Review 96 (4): 523–68.
- 注1: 一貫語と非一貫語
- 一貫語:多くの単語と文字と読みの規則が一致する単語。例:make, cake, lake,take..の ‘a’
非一貫語:文字と読みの規則が他の多く単語と一致しない単語。例:cat の ‘a’ - 注2: 二重乖離の原則
- 一方の認知機能Aが正常に保たれていて,他方の認知機能Bだけが選択的に障害を示す患者がいることに加えて,反対に認知機能Aだけに障害を示し,認知機能Bは正常の範囲である別の患者が存在する場合,この2つの認知機能 A と B とは二重に乖離している double dissociattion という。神経心理学の原則の一つ
深層失読では、動物カテゴリーの語に関する障害と非動物カテゴリーの語に関する障害の間の二重乖離を問題にする。