2019年度活動方針

活動方針の全体像

AGIの開発組織(当法人を含む)が数多く立ち上がった2015年から4年が経過しました。2010年台後半に入り、最先端の機械学習研究において、AGIを志向した複数のタスクをまたぐ問題設定が増えてきています。たとえば、マルチタスク学習、継続学習、ライフロング学習などがあります。世界的にAGIの研究開発が進み、認知の度合いが進むにつれ、そのインパクトは良くも悪くも人類全体に及ぶものであることが、広く認識されつつあります。このため、技術を民主化しつつ、より Beneficial な形でAGIを開発する組織でなければ信頼を得づらくなるでしょう。

こうした時流の中で私たちはは神経科学コミュニティもつ知識を開発要求仕様書として整理し、それを用いてAI/MLコミュニティにおける民主的な共同開発を促進するという、基本構想を目指すことにしました。つまり私たちは、神経科学コミュニティとAI/MLコミュニティ間の橋渡し役になります。この構想を支える脳型AGIの開発方法論は、数年間に渡るハッカソンなどを通じて、2018年度において形作られてきたばかりです。こうした背景から、2019年度の教育事業と研究開発事業として以下をおこなう予定です。

教育事業(人材育成事業)

本事業の目標は、全脳アーキテクチャ・アプローチからの研究開発に必要な、人工知能、神経科学、認知科学、機械学習などの異なる専門性を同時に備えた学際的な人材を長期的に育成・増加することにあります。本年度も例年の活動を継続し、複数回の勉強会を開催すること、年次のシンポジウムを開催することで一般の関心を喚起します。

年次のハッカソンに代えて CFI 主催の Animal-AI Olympics を後援することにし、関連するイベントを国内で開催することで、WBAへの興味を持つ研究者・技術者/・学生の増加をはかります。国内外の外部学術イベントへの参加・協力、外部学術団体との協力・情報交換などを行うことを通じ、当法人の進展状況をアピールしてゆきます。

外部グループとの協力により人材育成、巻き込み(新規)をはかります。

WBAI奨励賞を発行し、脳型AGIの(国内外の)技術開発の促進において、波及効果の高い開発成果を残した者を評価することで、コミュニティの活性化をはかります。

研究開発事業

本事業の目標は、全脳アーキテクチャ・アプローチによる外部での研究の先導と促進によりオープン・プラットフォーム上で民主的なAGI研究を加速することです。つまり、私たちは既存のWBA研究に関わる研究機関等と競合しないように活動を進め、情報交換などを行ったり、オープン・プラットフォームを利用した具体的な機械学習モデルの実装などといった研究の活性化をすすめます。

2019年度、私たちは神経科学知見を学びそれを脳型AIの開発に役立つ情報として整備することを重視します。これは脳型AGIの設計データの全体である全脳参照アーキテクチャ(Whole Brain Reference Architecture: WBRA)の構築にむけた重要な一歩です。具体的には、WBRAの一部分である機能回路の設計や、それらを記述するためのオントロジー、設計データの蓄積環境を構築する予定です。機能回路の設計としては、新皮質、海馬体の一部につづいて、基底核のフレームワークの設計も本格化します。

全脳アーキテクチャ構築のための統合ソフトウェアプラットフォーム開発も引き続き行う予定です。

さらに開発方法論との融合をはかりながら、失語症その他の認知障害に関するモデルの研究を発展させてゆく予定です。

また、当法人が開発促進する脳型AGIをより Beneficial なものとすることにむけた活動も継続する予定です。

なおこれら研究開発活動の多くは外部研究機関の研究資金により進められていますが、2019年度はドワンゴ人工知能研究所で行われていた研究を一部引き継ぐ形で直接当法人が研究費を支出する予定です。

活動方針策定の背景

約4年前に当法人を立ち上げた際に、私達は以下を宣言しました。

創設宣言

私達は、汎用人工知能の早期実現を目指した、WBAアプローチによる研究開発を、長期的に⽀えるNPO法人組織として、全脳アーキテクチャ・イニシアティブを創設しました。

その後、AGIの完成は少しづつ近づきつつあるとはいえ、第三次AIブームも落ち着くなかで、未だ実用段階とはいえないAGI開発に対して支援を得ることは簡単ではありません。利益分配を行わないNPO法人である我々には、今後しばらく資金調達を含めて舵取りが難しい時期が続くかもしれません。

最近、米マイクロソフトが Beneficial な AGI の開発を標榜するNPO法人である OpenAI の子会社であるOpenAI LP に対して10億ドルを投資し、OpenAI が将来生み出すAI技術を用いた商品化における優先パートナーとなったという報道もありました(2019年6月22日)。これに対しては世界的に大きな反響がありました。そしてOpenAIのポジションは我々と近いため、その振舞いは私達にとっても大きな教訓となるでしょう。

改めて、創設時に宣言した6項目からなる「WBAIの設立目的」をみてみましょう。

  • 長期継続: 完成時期(2030以降)に向け、継続的な目標堅持
  • 公益性: 研究成果を論文発表などで公開(ソフトウェアはオープンライセンスを基本とする)
  • 関連分野連携: AIを軸に神経科学、認知科学、機械学習等複数の学術分野の交流促進
  • 人材育成: WBA研究開発に必要な、複数分野の知識を備えた人材の育成
  • 基盤研究: 機械学習の結合プラットフォーム、汎用技術の評価手法、シミュレーター・データの準備等の研究環境構築
  • 啓蒙活動: 次第に隠蔽される最先端AI技術の透明化により、人々が AIと歩む未来を創出する素地を醸成する

今後の状況次第では、私たちは活動を縮小せざるを得ないかもしれません。しかしAGI完成の足音が近づくにつれ、その技術の独占・寡占されることを回避したいという国際的世論が高まり、公益のためにAGI開発を長期に促進する組織は希少となるでしょう。

よって私たちは、人類と調和した人工知能のある世界というビジョンを目指して、初心を忘れることなく継続的に歩を進めるゆきたいと考えております。そこで、2019年度以降は基本構想の実現のために主に以下の3つをすすめてゆきます。

  • 脳型AGIの開発方法論を洗練しつつ、その設計データの蓄積を進める
  • 活躍できる人材の育成と、組織アピールのための勉強会等のイベントの継続
  • 脳型であることも踏まえたAGIの社会への影響の検討と広報

そして着実に脳型AGIの開発方法論と開発環境の整備を進め、いずれはオープンなコミュニティによる全脳アーキテクチャ開発を大規模かつ民主的に進められるよう弛まぬ努力を続けたいと考えています。