2020年度アニュアルレポートから抜粋
2021年度の活動にむけて
脳型のAGIを個人の力量で開発できる脳科学と情報技術の両方に精通した人材を多く育成することは難しいという教訓を踏まえ、WBAIはBRA駆動開発を誕生させました。これは、膨大に蓄積しつつある神経科学知見を用いて外部設計仕様となるBRAを設計し、それに基づいてソフトウェアを開発・評価するという脳型ソフトウェアの開発手法です。このため、脳全体にわたるAGIソフトウェアの開発を推進するWBAIにおける、当面の技術目標は、脳全体のBRAデータを構築することになりました。
昨年までにBRAデータ形式が概ね標準化され、BRAを活用した開発の定式化が大きく進みました。そこで本年度は、これらの技術を普及させ、神経科学と情報学の接点に興味を持つ研究者の参入を促したいと考えています。そのためには、学術的な成果の発表や人材育成を通じて、活動を推進・普及させていきたいと考えています。そこで、引き続き本年度においても、教育事業と研究開発事業を継続し、以下などの活動をおこなう予定です。
教育事業(人材育成事業)
本事業の目標は、全脳アーキテクチャ・アプローチからの研究開発に必要な、人工知能、神経科学、認知科学、機械学習などの異なる専門性を同時に備えた学際的な人材を長期的に育成・増加することにあります。本年度も例年の活動を継続し、複数回の勉強会を開催すること、年次のシンポジウムを開催することで一般の関心を喚起します。
ハッカソン(オンラインの国際コンペティション)を開催することで、WBAへの興味を持つ研究者・技術者・学生の増加をはかります。国内外の外部学術イベントへの参加・協力、外部学術団体との協力・情報交換などを行うことを通じ、当法人の進展状況をアピールしてゆきます。
外部の研究者・技術者およびグループとの協力により人材育成、巻き込みをはかります。
WBAI奨励賞の募集を行い、脳型AGIの(国内外の)技術開発の促進において、波及効果の高い開発成果を残した方々を評価することで、コミュニティの活性化をはかります。
研究開発事業
本事業の目標は、全脳アーキテクチャ・アプローチによる外部での研究の先導と促進によりオープン・プラットフォーム上で民主的なAGI研究を加速することです。つまり、私たちは既存のWBA研究に関わる研究機関等と競合しないように活動を進め、情報交換などを行ったり、オープン・プラットフォームを利用した具体的な機械学習モデルの実装などといった研究の活性化をすすめます。
2021年度、私たちは、脳の解剖学的構造を記述したBIFと、それに整合的な機能の仮説的な機序を記述したHCDからなるBRA形式に従って、脳型AIの開発に役立つ形での神経科学知見の蓄積を進めます。これをもちいて特定のタスクにおける脳型AIの作成を促進します。またそうして構築された脳型AIの実装を評価するために、BRAを活用しながら脳型AGIの神経科学的妥当性を評価する技術の開発も進めます。
さらに引き続き全脳アーキテクチャ構築の基盤となる統合ソフトウェアプラットフォームや、当法人が開発促進する脳型AGIをより Beneficial なものとすることにむけた活動も継続する予定です。
なおこれら研究開発活動の多くの部分が外部研究機関の研究資金により進められていますが、今年度もその一部については直接当法人が研究費を支出する予定です。
年度の予算
予定収入は約211万円で、会費収入176万円のほか有料化した勉強会の収益を含みます。2020年度の会費収入は323万円でしたので、予定される会費収入は大幅に減少していますが、これは今まで当法人を支えていただいた創設賛助会員3社が5年の期限を迎えたためです。当期予定収入と前期繰越金約916万円を合計すると約1127万円となります。
支出では、管理費に約83万円、イベント開催費用、研究開発費を含む事業費に約222万円、計約305万円を予定しています(当期予定収入との関係では94万円の赤字になります)。なお、2020年度の予算では管理費に約97万円、事業費に約277万円の計約373万円の支出を予定していました。
マイルストーン
全脳アーキテクチャアプローチによる脳型AGI開発は、外部設計仕様であるBRAを脳科学的知見で制約しながら設計し、BRAを参照しながらソフトウェアを開発・評価するBRA駆動開発という形で具現化されてきました。この開発手法により脳型AGIを完成させるためには、少なくとも以下の5つのマイルストーンを達成する必要があると考えています。
- 全脳の領野を含むBIFの完成: 複数の哺乳類の脳科学的知見を統合して、脳のほぼ全体をカバーするキメラ型の脳情報フロー(BIF)を構築する。
- 典型的機能に対するHCDの完成: 概ね全てのBIFに対して、1つ以上の仮想コンポーネント図(HCD)を構築する。
- WBA全体の初期実装: 脳のほぼ全ての領野がBRAに基づいて実装され、統合されたソフトウェアを作成する。
- アーキテクチャ探索の自動化: 脳型AIソフトウェアを仮想環境で実行することで、テストを自動化し、様々なアーキテクチャを効率的に比較・検討することができるようにする。
- 人や動物が解決できる典型的な認知課題に対応できるように、HCDのカバー範囲を拡大する。
- WBAシステムの完成: 脳の神経回路に対応するほぼすべての部品を組み立てたソフトウェアにより、人間の典型的な作業を脳と同じ方法で解決できることを実現する。
こうしたマイルストーンを踏まえ、当面は、第1、第2項目を含む脳全体のBRAデータの構築に注力するとともに、第3項目の実現可能性を評価していきます。この段階では、脳科学と情報学の接点に関心のある研究者を巻き込むことで、その研究開発を加速できるでしょう。そこでまずは、学術的な成果の発表や人材育成を通じて、BRAを活用した開発を広めていきたいと考えております。こうした活動を着実に継続することにより、近い将来、脳型AGIの開発に有用な技術基盤が構築され、後半のマイルストーンに着手できるとでしょう。脳型AGIの完成が見えてくると、安全性への配慮がより重要になってきます。そこで、いずれ到達する脳型AGIをBeneficialで安全に実現するための議論も継続してゆきます。
私たちは、上記ような展望のもと、今後も継続的な取り組みを行っていきたいと考えていますので、ご理解とご支援をいただければ幸いです。