2023年度アニュアルレポートから抜粋
私たちは 2024年も、BRA駆動開発を軸として脳型人工知能の研究開発を促進するために以下の教育事業と研究開発促進事業をおこなう予定です。
教育事業(人材育成事業)
本事業は、長期的に全脳アーキテクチャアプローチに基づく研究開発に必要な、人工知能、神経科学、認知科学、機械学習など異なる専門性を持つ学際的な人材を育成し、増加させることを目的としています。2024年も例年通り複数の勉強会や年次のシンポジウムの開催などによって、社会的関心の喚起も含めた教育事業を継続してゆきます。
国内外の外部学術イベントへの参加・協力、外部学術団体との協力・情報交換などを行うことを通じ、当法人の進展状況をアピールしてゆきます。また、外部の研究者・技術者およびグループとの協力により人材育成、巻き込みをはかります。
WBAI奨励賞の応募を行い、脳型AGIの(国内外の)技術開発の促進において、波及効果の高い開発成果を残した方々を評価することでコミュニティの活性化をはかります。また、当法人が開発促進するヒト脳型AGIをより人類とAIとを調和させることに役立つように促進する活動も継続する予定です。
研究開発事業
研究開発促進事業は、NPO法人である利点を活かし、AGI研究に携わる他の研究機関等との競合を避け、BRA主導の開発を推進することで、オープンプラットフォーム上での民主的に全脳アーキテクチャアプローチによるAGI研究の活性化と加速を目指します。具体的には以下の表に示した活動を中心に実施する予定です。
表:WBA研究開発カテゴリ一覧
大カテゴリ | 中カテゴリ | 説明(新) |
方法論 | BRAデータ管理システム | BRAデータ、投稿審査フロー、BRAES、審査ツール等の方法論策定 |
方法論 | BRA可視化 | BRAデータ可視化ツールの開発とレイアウト・表示項目の検討 |
方法論 | HCD設計 | BRA設計における特にHCD設計のための方法論構築 |
方法論 | BRA全般 | BRA駆動開発の方法論に関する研究 |
運用 | BRAデータ管理システム | BRAデータ、投稿審査フロー、BRAES、審査ツール等の運用(マニュアル整備・バージョンアップ等を含む) |
運用 | BRA可視化 | BRAデータ可視化ツールの運用とレイアウト・表示項目の最適化 |
運用 | WholeBIF管理 | WholeBIFへの追加項目の審査と登録(BDBRA含む) |
運用 | データアップデート | データのバージョン管理実施 |
設計 | BRAデータ管理システム | BRAデータ、投稿審査フロー、BRAES、審査ツール等の設計 |
設計 | BIF構築 | BIFの作成と関連作業の実施 |
設計 | HCD設計 | HCDの設計と関連作業の実施 |
設計 | WholeBIF構築 | 脳全体を統合するBIFデータの構築作業(BDBRA含む) |
設計 | WholeHCD構築 | 分散構築されたHCDの統合作業 |
評価 | BIF信憑性評価 | BIFの信憑性評価実施 |
評価 | HCD評価 | HCDの機能性・構造整合性評価と審査フロー・自動審査の実施 |
評価 | 忠実度評価 | 実装の評価(異常系含む)、活動再現性評価、機能評価の実施 |
評価 | 異常系評価 | パフォーマンス変動の評価(人間もしくは動物の機能不全) |
評価 | 活動再現性評価 | ソフトウェアの振る舞いと実験で得られた神経活動の比較評価 |
評価 | 構造忠実度評価 | 実装コードの構造類似性評価 |
評価 | 実行環境整備 | 脳型ソフトのタスク実行・テスト環境の整備 |
実装 | 実装環境整備 | ソフトウェアプラットフォーム(BriCAなど)の構築 |
実装 | アーキテクチャ実装 | HCDを参照したソフトウェアフレームワークへのアーキテクチャ実装(構造忠実度評価可能な形式) |
実装 | BRAデータ管理システム | BRAデータ、投稿審査フロー、BRAES、審査ツール等の実装 |
実装 | コンポーネント実装 | HCDのCircuit毎プロセス記述を参照したソフトウェアコンポーネント実装(活動再現性評価可能な形式) |
実装 | 実装環境整備 | ソフトウェアプラットフォーム(OpenAI Gymなど)の構築 |
BRA以外 | 新機能の検証 | 未知の計算機構探索のための実装(ヒトを含む動物が解決可能な特定タスク対象) |
BRA以外 | 新機能の設計 | 未知の計算機構の設計(ヒトを含む動物が解決可能な特定タスク対象) |
その他 | 人材育成 | 実装プロセス実行可能な技術者を育成するための教育的な実装 |
その他 | AIアライメント | AIと人類の調和を目指す活動の実施 |
以下ではこれらの活動の中でも、BRA駆動開発において中心的な部分として下図のロードマップに記されている BIF構築と HCD構築について詳しく述べます。
BIF構築
BIF構築の取り組みとして、2024年末には WholeBIF を完全自動で構築する目標を掲げています。この目標に向けて私たちは以下のステップでBIF構築活動を進めていきます。
まず前半期に BDBRA を用いた論文検索システムを完成させること [B5]、そしてこのシステムを利用して論文検索に特化した WholeBIF の構築を行い完成させる [B7] ことが予定されています。さらに、文献からの情報の信頼性を定義する作業 [B4] を前半期に完了し、それを基に WholeBIF への自動データ登録のためのスクリーニングプロセスを構築します [B6]。このプロセス [B6] を用いて BDBRA から WholeBIF を自動的に構築する機能の開発を始めます [B9]。
年末には、この自動構築機能 [B9] の成果を用いてWholeBIFの自動構築に本格的に移行し [B10]、これにより2025年以降の WholeBIF の手動設計 [B8] がほぼ不要になり、プロセスの自動化と効率化を図ることができます。
HCD構築
2026年に全脳参照アーキテクチャ(Whole Brain Reference Architecture)を実現することを目標に、2024年の HCD (Hypothetical Component Diagram) 構築においては以下の活動を進める予定です。
FRG (機能実現グラフ) に対応するために2023年から進行中の BRA(Brain Reference Architecture)データフォーマット(バージョン2.0)[H3] の完成を目指し、これを多様な HCD の構築と蓄積 [H4] の推進に活用します。
また、主要な脳器官を横断して AGI を実現するための FRG の初版の作成 [H2] を進め、その成果を FRG に沿った HCDセットの手動での整理と組織化 [H5] の推進に利用します。
2024年中にはノード関係性の自動評価技術 [H6] を完成させ、これを2025年の自動FRG設計技術 [H7] の開発に繋げる予定です。
Openな研究開発コミュニティの形成
全脳アーキテクチャアプローチを実現するための研究を支援するためのソフトウェアなどの研究インフラストラクチャを整備する活動と、それらを利用して研究を進める活動を他の組織とも連携・協力しながら行っています。
脳型ソフトウェア の開発に役立つ BRA を構築するために BIF形式に従って解剖学的知見の蓄積を進めた脳情報フローの構築を進め、それを用いて特定のタスクや機能を前提とした機能仮説の付与を SCID法によって行うことを促進します。また、そうして構築された脳型ソフトウェアの実装を評価するために BRA を活用しながら脳型AGI の神経科学的妥当性を評価する技術の開発も進めます。
特に本年はこうした開発促進の一環として全脳アーキテクチャ国際ワークショップの実施を進めます。
人類と調和したAIのある世界へと向かうための活動
WBAアプローチで構築されたヒト脳型AGIはヒトとの親和性が高いという特性を活かして、私たちは人類と調和したAIのある世界へと向かうことを促進します。
一つの重点は対人インタラクションが必要な応用分野の発展にあります。扁桃体による情動メカニズムとLLMを組み合わせた情感豊かなインタラクションの研究は既に進展しており、これを今後も推進していく予定です。
また、親和性の中でも特に「脳に基づく解釈可能性」を持つヒト脳型AGIが人類と超知能の架け橋となり、人類が超知能から受ける負の影響を軽減する可能性を探求しています。そのために必要に応じてAIアライメントに関連する組織との連携をはかりたいと思います。
2024年度の予算
予定収入は約54万円で、主に会費収入からなります(2023年度の会費収入は約70万円でした)。当期予定収入と前期繰越金約737万円を合計すると約791万円となります。
支出では、管理費に約81万円、謝金、賞金、通信費を含む事業費に約82万円、計約163万円を予定しています(当期予定収入との関係では109万円の赤字になります)。なお、2023年度の予算では管理費に約81万円、事業費に約108万円の計約189万円の支出を予定していました。
結語
現在の高度なAI技術は脳を参照しない非脳型AIとして発展しています。対して私たちはヒト脳型AGIを構築するために全脳アーキテクチャアプローチを継続的に提唱しています。このアプローチには、AGI開発の加速と対人親和性の向上という2つのメリットがあります。
特に、超知能へと到達しうる高度なAIのリスクが強く懸念される現在においては、脳型AGIにおける「脳に基づく解釈可能性」が新たに重要性を持ちはじめています。このヒト脳型AGIの設計情報として、私たちはWhole Brain Reference Architecture (WBRA) の構築を目指しています。WBRAは、ヒトの脳の構造と機能を参照し、脳型AGIを実装するためのソフトウェア設計情報を提供するものです。最初のAGIがどのような形で完成したとしても、WBRAが存在すれば、それを利用することで必要に応じて脳型AGIを構築することが容易になるでしょう。
近年、AGIが2027年頃に完成するかもしれないという見方も出ています。このような技術的展望を踏まえ、WBAIとしても2027年までに「WBRAを半自動で生成できるシステム」の完成を目指すロードマップを作成しました。
現在のところ、ヒトの認知機能を十分に再現できる脳型AGIのソフトウェア設計情報の提供を目指している組織はWBAIをおいて他にはありません。この脳型AGIの実現に向けた取り組みの一環として、2023年夏には新たなミッションを「全脳アーキテクチャアプローチによる汎用人工知能のオープンな開発を促進する」と微調整し、開発促進されるAGIが脳型であることを強調しました。
AI技術の急速な進歩が人類の生存を含むリスクを増大させている現状を踏まえると、解釈可能性の高いヒト脳型AGIの構築に必要な技術的条件を整備しておく私たちWBAIの活動は、そのリスクの低減に貢献できる可能性を持っています。こうした点について皆様のご理解と継続的なご支援を心よりお願い申し上げます。