『みんなで考える人工知能の未来』では、人工知能の研究に専門的に携わる方ではなく、ビジネスや経済、文化、教育などの幅広い分野の方々に、人工知能に関するご意見をお聞きしていきます。
今回は、特別編として、東京都市大学付属高等学校に通う現役高校生である佐藤太一さんと、全脳アーキテクチャ・イニシアティブ代表の山川宏との特別対談です。
佐藤さんは、個人的に人工知能に興味を持ち、いろんなリサーチをする中で、全脳アーキテクチャ・イニシアティブのことを知り、ぜひ山川代表に直接会っていろんなことを聞きたいと熱烈にアプローチして来られ、今回の対談が実現しました。
モデレーターは、『みんなで考える人工知能の未来』の企画を担当する、全脳アーキテクチャ・イニシアティブ広報委員の吉岡英幸が務めました。
一時的な問題はあるが、人工知能は社会繁栄に貢献する期待もあります。
ー 佐藤さん、今日はせっかくの機会ですから、山川先生になんでも聞いてください。
佐藤:技術的な質問ですが、私の解釈では、ディープラーニングは、知性を創るというよりも、機械が判断するための技術かなと思うのですが、汎用人工知能を創ることにも有用なのでしょうか。
山川:人工知能の60年の研究の中で、大きな飛躍をもたらしたのがディープラーニングです。人間の知性を機械で再現しようとするときに、人間が大人になってからできることは言葉で説明できるため、プログラムとして書くことが可能なのです。でも、人間の子供が3歳になるまでに獲得する能力の多くはプログラミングできないため、機械が自分で学習するしかありませんでした。
汎用人工知能は、こうした子供の知能も備える必要があります。 それ故にディープラーニングの出現が、その実現に大きな可能性をもたらしたのです。
佐藤:僕は、人工知能が高度に発達した社会がどのように変化していくのかに、とても関心があるのですが、将来において人工知能が人間の仕事をすべて奪ってしまうのではないかという懸念がありますよね。僕は、産業革命のときがそうだったように、人工知能の発展は、一時的に失業などが問題になるものの、結果的には、人間に繁栄をもたらすのではないかと思っているのですが、山川先生はどう思われますか。
山川:人工知能が奪った仕事と同量以上の新しい仕事を生み出すならばこれまでと同様です。しかし、人工知能には難しく人間にしかできない仕事というのは、かなり高度なスキルを要する仕事になってゆくと予想されます。そのため、人工知能の台頭により仕事を失った全ての人が、新たな仕事にスイッチしうるのかといった懸念が残ります。
人工知能の適切な研究や活用を促進するための統括機関が必要だと思う。
佐藤:一方で、高度な機能を果たす人工知能が社会で活躍するにつれ、事故などで結果的に人間に危害をおよぼしてしまうリスクもあると思います。そういったことを未然に防いだり、起こった問題に適切に対処するためのルールや法律を整備することも急がれると思うのですが。
山川: 現実的に可能な範囲においては、今後に備えて予め進めておくことが望ましいでしょう。一方で、法律の専門家が、人工知能がもたらすあらゆる問題に対して、事前に想定することは難しいという前提を認めた上で、今後生じる様々な事象に対して、迅速に対応する体制づくりも重要そうです。人工知能と社会との接点をについて考えるという点からは、たとえば人工知能学会では倫理委員会が活動しています。そこでは既に、人工知能の研究者がどのように倫理観を持って研究に従事すべきかといった議論も始まっており、先ごろの全国大会では、AI研究者にとっての「倫理綱領」のたたき台が公開されました。
ー 佐藤さんは、人工知能の発展に伴って、人工知能を適切に研究・活用していくためのルールや枠組みづくりをしていくことに関心があるのですか。
佐藤:そうですね。僕自身は人工知能の発展に期待しているのですが、一方で、人工知能が暴走してしまうのではないかという社会的な懸念があります。ですから、人工知能が適切に活用されるための枠組みのようなものが必要だと思います。
研究開発の方法の標準化や、共通のルール、人工知能活用における法律など。それらを考える統括機関みたいなものがあればいいと思います。
山川:人工知能が暴走しないようにする方法は基本的には2つと考えられています。一つは、人間に不利益をもたらすような動機を創らないようにする方法です。もう一つは、暴走しようとしたときに、強制停止できる手段をもうける方法です。
いすれにしても、私達が人工知能を適切に開発・活用していくための共通の枠組みを考えることは、今後の最重要分野の一つでしょう。佐藤さんのような若い方が、そういう分野で活躍していただけるといいですね。
佐藤さん;はい、ぜひそうしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。
山川宏プロフィール
工学博士。特定非営利活動法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ代表。ドワンゴ人工知能研究所所長、人工知能学会理事および副編集委員長、玉川大学脳科学研究所特別研究員。専門は人工知能。特に、認知アーキテクチャ、概念獲得、ニューロコンピューティング、意見集約技術など。全脳アーキテクチャ勉強会、汎用人工知能研究会の発起人の一人。
佐藤太一さん
東京都市大学付属高等学校に通う現役高校3年生。人工知能に関心があり調べていたところ全脳アーキテクチャ・イニシアティブを知る。一通のメッセージがきっかけで、WBAI代表の山川と直接対談が実現した。
モデレーター
吉岡英幸。株式会社ナレッジサイン代表取締役。全脳アーキテクチャ・イニシアティブ広報委員。
IT業界を中心にコミュニケーションスキル教育や組織変革のファシリテーションなどを手がける。2016年1月より全脳アーキテクチャ・イニシアティブの運営スタッフにボランティアとして参画。