公立はこだて未来大学の佐藤直行と申します。3回目の勉強会から参加しています。
私は脳科学の背景からWBAIに参加しています。脳科学と言っても広い分野で、対象は分子からネットワークレベルまで様々、用いる実験計測技術も様々です。私の専門は計算論的神経科学(computational neuroscience)という、脳の働きを計算論として理解しようする分野です。特に、海馬や大脳皮質の働きに興味があり、心理実験や脳計測実験(脳波や機能的脳画像)をしたり、記憶や認知に関わる神経回路のシミュレーションをしたりしています。計算論的神経科学では、脳を理解するために「脳を創って理解する」のがひとつの方法で、脳の原理的な理解や、脳型計算機の実装を目指しています。これはWBAIの目的「人間のような汎用人工知能を創る」とも合致すると思います。一方、脳科学としては、脳がどう働いているかを知りたいので、若干の違いはあるかもしれません。
コンピュータと違って、脳は「自律分散的な制御」がひとつの特徴です。コンピュータは中央処理装置が全ての演算を実行しますが、脳は異なるモダリティの情報処理(例えば、視覚、聴覚、体性感覚など)が異なる脳部位で実行・保持されていて、それらのネットワークとして(なぜか)統合的に機能しているようです。このため、どこかの一部が損傷しても全体がフリーズしたりはしません。例えて言えば、試合中のサッカーチームで、メンバーが一人二人欠けても試合をそれなりに続行できるような感じです。脳の構成要素もそのように、ネットワークの中で協調的に働く仕組みを何か内在しているように思われます。WBAの作業仮説は「各モジュールは個別の機械学習アルゴリズムを実行している」ことです。「全体としてうまく働くために、複数の脳部位がどのように連動すればよいのか」はWBAとしても脳科学として根幹をなす問題で、私もWBAIの活動を通じて勉強したいと考えています。
WBAIの良さのひとつは、分野の全く違う方々が、新しい事柄にチャレンジしようという心意気で、同じ場に集まって気軽に議論ができることだと思っています。私の興味は脳寄りですが、勉強会の参加者の方々話をすると、新しい人工知能を作りたい、やっぱり脳を創りたい、事業に生かしたい、興味があったので勉強したい、何も知らないので来てみた、など本当に様々です。どの意見も刺激になります。今後とも、皆様と一緒にWBAIを盛り上げていきたいと思います、よろしくお願いいたします。