NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI)では、汎用的な人工知能の開発に向けた最短距離は脳に学ぶこと、つまり全脳アーキテクチャ・アプローチであると考えています。全脳アーキテクチャの開発を促進するため、これまで 4回のハッカソンを開催しました。本年度は「作業記憶」をテーマとした第5回WBAハッカソンを企画しています。作業記憶はプランニングなど多くの高次認知機能にとって必要なものであるため、その実現は全脳アーキテクチャ完成に向けた一つの重要なステップとなると考えられます。
この第5回WBAハッカソンに先立ち、広く作業記憶のモデルを募る「モデラソン(model-athon)」を企画します。このモデラソンでは、ハッカソンでの作業記憶タスク(下記)を解くための脳の仕組みのモデルを募集します。厳正な審査の上で授賞を行い、優秀なモデルには最大5万円を副賞として提供します。
モデラソン参加者は自分のモデルをハッカソンや論文発表に用いることができます。また、参加作品(モデル)は、他のハッカソン参加者やこの分野に興味のある方々の参考になります(利用にあたってはCreative Commons ライセンスが適用されます)。
本モデラソンは Project AGI の協力のもとで開催されます。
募集要項
- 申し込みはチーム単位 (一名でも可) でお願いします。
- 事前に参加モデルを置く GitHub ページを準備ください。
- 〆切:2020年9月30日
- 応募方法:こちらのフォームから応募ください。
- モデルについて
- 応募ごとに1モデルのみ提示ください。
- 実際に動くソフトウェアではなく、次項に記すような記述のみを提出ください。
- 〆切までに応募フォームで指定した GitHub ページに PDF または MarkDown 形式でのモデルの説明(英語のテキスト[〜2000語]およびアーキテクチャ図を含む)、BIF形式(下記)のデータおよび Creative Commons ライセンスの表示を置いてください。
- 汎用性、生物学的妥当性、簡潔さからなるGPS 基準に基づいて評価されます。
以下の条件について、モデルの説明の中でアピールを行ってください。- ハッカソンのタスクを解くだけでない、より汎用性がある作業記憶のモデルに高い評価が与えられます。
- 実際の脳の構造(全脳アーキテクチャ)に合致したモデルに高い評価が与えられます。
- 他の条件が同じであれば、より簡潔なモデルに高い評価が与えられます。
- 応募はさらに、実装可能性、新規性(既存のモデルのコピーでないこと)、了解性をもって評価されます。
- 結果の発表:10月末を目処に発表を行います
⇒「ワーキング・メモリー・モデラソン:重要功労賞」 - 質疑応答:応募者を専用 Slack に招待いたします。
ハッカソンタスク概要
- (Delayed)Match-to-sample タスクを用います。
Match-to-sample タスクは複数の図形が同じかどうかを判定するタスクです。
比較対象となる図形には回転や縮小などの操作が加えられることがあります(Invariant Object Identification)。Delayed match-to-sample タスクでは、基準となる図形が画面から消えた後に判定を行う必要があります。 - エージェントは、新しいタスクセットを与えられる際に、数件の解答例の提示を受け、どの属性に注目すべきかを学んでタスクを遂行することが求められます(few-shot imitative rule learning)。
- エージェントには(ボタンの選択が報酬につながるといったことを学ぶなどの)事前学習が許されます。
- エージェントの視覚は(ヒトの視覚のように)中心視と周辺視を持つものとします。すなわち、中心視野は解像度が高く、それ以外の視野は解像度が低くなります。図形の正確なパターン認識を行うためには、視線を動かして当該図形を中心視野で捉える必要があります。こうして複数の図形を比較するには作業記憶が必要になります。
タスクの詳細については下記を御覧ください。
参照アーキテクチャ
作業記憶の脳内機序ははっきりしたことがわかっていないようですが、以下のようなことがいえるでしょう。
- 作業記憶は知覚表象に関わるので、知覚領野(前頭以外の大脳皮質)が関与する。
- 作業記憶の内容(過去の知覚内容)と現在の知覚内容は皮質内で区別されなければならない。
- 作業記憶は定義上執行機能が関わるので、執行機能に関与するとされる前頭葉が関与する。
- 作業記憶には(上記から)前頭葉と知覚領野の間のネットワークが関与する。
- 執行機能(前頭葉)は(知覚領野の)作業記憶の保持と終了の制御を行う。
第5回WBAハッカソンでは以下の参照アーキテクチャを提供する予定ですので、参考にしていただければと思います。
図1第5回WBAハッカソン用全脳アーキテクチャ案
SC: 上丘、LIP: 外側頭頂間野、FEF: 前頭眼野、BG: 大脳基底核、
preMotor:前運動野、PTg: 脚橋被蓋核
参考文献
- 作業記憶についてはこちら:
Shintaro Funahashi: “Working Memory in the Prefrontal Cortex,” Brain Science, 7(5):49.
doi:10.3390/brainsci7050049 (2017) - 計算論的神経科学の入門はこちら:
CCNBook: https://github.com/CompCogNeuro/ed4 - 眼球運動についてはこちら:
Okihide Hikosaka, et al.: “Role of the Basal Ganglia in the Control of Purposive Saccadic Eye Movements,” Physiol Rev, 80(3):953-78. doi:10.1152/physrev.2000.80.3.953 (2000)
Brain Information Flow Diagram (BIF)
WBAIでは、全脳アーキテクチャを記述・共有するための形式として information flow diagram の一種である Brain Information Flow Diagram (BIF) を提唱しています。今回のモデラソン参加者にはモデルの BIF(スプレッドシート形式)での提出をお願いします。なお、上記参照アーキテクチャの BIF はこちらになります。
ハッカソンタスク詳細
現在企画中の第5回ハッカソンの仕様案です。
この仕様はモデラソン用に固定されますが、ハッカソンのアナウンス時には変更があるかもしれません。
テスト画面
エージェントが提示される画面は3つのセクションからなります(図2)。
テスト本体
Delayed Sample Matching Task の場合、最初に一定時間 Sample 画像が Target 画像なしに提示されます(図3)。
次にSample 画像が隠され、一定の時間(最大数秒)後に Target の図形が表示されます。
Target 図形が表示されている間に、エージェントは Response Section のボタンを選びます(図4)。
一定時間(最大数秒)が経過した後、正解のボタンが点滅します(図5)。この時点ではTarget 図形は表示されたままです)。
正解の場合、報酬が与えられます。Sample Section に提示された図形と「同じ」ものの下にあるボタンを押すと正解になります(上の例題では、正解はサンプルと色と向きが違いますが形が同じです)。
なお、ハッカソンでは同じ図形がない場合の選択肢も加えるかもしれません。
Non-Delayed Sample Matching Task の場合、Sample 画像は Target 選択の間も提示されています。ここでも視線移動の間情報を保持しなければならないので作業記憶は必要です。
例示(few-shot imitative rule learning)
エージェントは、テスト本体実施の前に正解試行を1回以上見せられます。
正解試行により、エージェントは Sample と Target の間でどの属性(色または形)に基づいて一致を判断するかを学びます。
Target Section の図形の提示後、Response Section の対応するボタン(正解ボタン)が点滅します。
例示セッションの後、全画面が2回フラッシュし、テスト本体に移行します。
事前訓練
参加者は例えば次のような事前訓練を設計し、エージェントを訓練することができます。
- Target Section に1つだけ図形が表示され、表示された図形の側を選択すると、Response Section の対応する四角が点滅し、報酬がもらえる。
- Non-Delayed Sample Matching Task で例示セッションがないタスク
Target 図形の間で Sample と最も類似しているもの(ユニークに決まる)を選ぶと報酬がもらえる。