概要
人間の脳全体構造における知的情報処理をカバーできる全脳型AIアーキテクチャを工学的に実現できれば、人間レベル、さらにそれ以上の人工知能が実現可能になります。これは人類社会に対して、莫大な富と利益をもたらすことが予見されます。例えば、検索や広告、自動翻訳や対話技術、自動運転やロボット、そして金融や経済、政治や社会など、幅広い分野に大きな影響を与えるでしょう。私達は、この目的のためには、神経科学や認知科学等の知見を参考としながら、機能的に分化した脳の各器官をできるだけ単純な機械学習器として解釈し、それら機械学習器を統合したアーキテクチャを構築することが近道であると考えています。
従来において、こうした試みは容易ではないと考えられてきましたが、状況は変わりつつあります。すでに、神経科学分野での知見の蓄積と、計算機速度の向上を背景に、様々な粒度により脳全体の情報処理を再現/理解しようとする動きが欧米を中心に本格化しています。 またDeep Learning などの機械学習技術のブレークスルー、大脳皮質ベイジアンネット仮説などの計算論的神経科学の進展、クラウドなどの計算機環境が充実してきています。
こうした背景を踏まえるならば、全脳型AIアーキテクチャの開発は世界的に早々に激化してくる可能性さえあります。 そこで私達は、2020年台前半までに最速で本技術を実現できるロードマップを意識しながら、この研究の裾野を広げていく必要があると考えています。
上記の目標に到達するために、情報処理技術だけでなく、ある程度のレベルにおいて神経科学等の関連分野の知見を幅広く理解しながら、情熱をもってこの研究に挑む多くの研究者やエンジニアの参入が必要と考えております。本会の開催は第4回目にあたりますが、今回は関西エリアの皆様へもネットワークを広げるため、第一回目の内容を踏襲しつつ、脳情報通信融合研究センターおよび理化学研究所生命システム研究センターからも講師をお呼びして全脳アーキテクチャの実現に向けた多面的な議論を行いたいと考え企画いたしました。
今回の勉強会を通じて,人間のように柔軟汎用な人工知能の実現に興味のある研究者,脳に興味のあるエンジニア,関連分野(神経科学,認知科学等)の研究者間での交流を,さらにはかりたいと期待しています。
開催詳細
- 日 時:2014年6月2日(月) (13:30~17:00)
- 会 場:脳情報通信融合研究センター(CiNet)1F 大講義室
- 場 所:大阪府吹田市山田丘1-4 大阪大学吹田キャンパス内
- 参加者:約80人(スタッフ・関係者含む)
- 主 催:脳情報通信融合研究センター(CiNet)/理化学研究所生命システム研究センター(QBiC)
講演スケジュール
時間 | 内容 | 講演者 |
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13:00 | 開場 | |
13:30 | 挨拶&本日の流れ説明 | 高橋恒一 |
13:35 | 趣旨説明(資料) | 一杉裕志(産業技術総合研究所) |
13:50 | AIの未解決問題とDeep Learning(資料) | 松尾豊(東京大学) |
14:20 | 脳の主要な器官の機能とモデル(資料) | 一杉裕志(産業技術総合研究所) |
14:50 | 脳をガイドとして超脳知能に至る最速の道筋を探る(資料) | 山川宏(富士通研究所) |
15:20 | 休憩 | |
15:30 | 自然な知覚を支える脳情報表現の定量理解(資料) | 西本伸志(脳情報通信融合研究センター) |
16:00 | 脳型コンピュータの可能性(資料) | 泰地真弘人(理化学研究所生命システム研究センター ) |
16:30 | フリーディスカッション | |
17:00 | 意見交換会(希望者による懇親会) |
開催趣旨説明&脳の主要な器官の機能とモデル
講演者:一杉裕志(産業技術総合研究所)
1990年東京工業大学大学院情報科学専攻修士課程修了。1993年東京大学大学院情報科学専攻博士課程修了。博士(理学)。同年電子技術総合研究所(2001年より産業技術総合研究所)入所。プログラミング言語、ソフトウエア工学の研究に従事。2005年より計算論的神経科学の研究に従事。
「全脳アーキテクチャ解明に向けて」
AIの未解決問題とDeep Learning
講演者:松尾豊(東京大学)
東京大学で、ウェブと人工知能、ビジネスモデルの研究を行っています。 ウェブの意味的な処理を人工知能を使って高度化すること、人工知能のブレークスルーをウェブデータを通じて検証することを目指しています
脳をガイドとして超脳知能に至る最速の道筋を探る
講演者:山川宏(富士通研究所)
1987 年 3 月東京理科大学理学部卒業。1992年東京大学で神経回路による強化学習モデル研究で工学博士取得。同年(株)富士通研究所入社後、概念学習、認知アーキテクチャ、教育ゲーム、将棋プロジェクト等の研究に従事。フレーム問題(人工知能分野では最大の基本問題)を脳の計算機能を参考とした機械学習により解決することを目指している。
自然な知覚を支える脳情報表現の定量理解
私たちの日常生活を支える複雑・多様な脳機能がどのような神経基盤によって成立しているのかを研究しています。より具体的には、自然な知覚・認知条件下における脳活動(単一細胞記録、fMRI記録等)を説明する予測モデルの構築を通じ、脳情報処理の定量的な理解を目指しています。また、予測モデルを応用することで脳情報デコーディングの数理基盤開発を目指します。
脳型コンピュータの可能性
講演者:泰地真弘人(理化学研究所生命システム研究センター )
1992年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了(博士(理学))。東京大学教養学部基礎科学科第二助手、統計数理研究所助教授を経て2002年理化学研究所ゲノム科学総合研究センターチームリーダー。その後いろいろあって2013年9月より現職。 統計物理、分子シミュレーション向けなどの科学計算向け専用計算機開発に従事。ハードウェアの限界に挑みたいと考えています。