田和辻可昌、谷口彰、中島毅士、鈴木雄大、芦原佑太、山川宏
サマリー
WBAI(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)は、国際会議 ICONIP2025(International Conference on Neural Information Processing、沖縄科学技術大学院大学にて開催)において、3つの主要企画(Tutorial・Special Session・Workshop)を実施し、研究発表および公開フォーラムにも参画しました。
Tutorialでは、BRA(Brain Reference Architecture)駆動開発の方法論を初めて国際会議で体系的に発信し、ハンズオン演習を通じて実践的なスキル共有を行いました。Special Sessionでは、脳型AIの安全性・解釈可能性について国際的な議論を深め、ヒト脳型AIが持つ固有の価値を示しました。Workshopでは、5件のBRAデータが発表され、脳型AI研究の具体的な進展が共有されました。ポスター発表では、異種間の大脳新皮質領域の対応関係を自動推定する手法が発表され、WholeBIF整備への貢献が示されました。公開フォーラムでは、山川代表がパネル討論のコーディネーターとして登壇し、人とAIの共生について議論しました。
本レポートでは、WBAIが推進する脳型AI開発の国際発信、脳型AIの安全性と解釈可能性、そして人類とAIの共生に向けた議論の深化について報告します。ICONIP2025への参加は、脳型AIの実現可能性とその価値を国内外に伝え、世界に広がりつつある脳型AI研究をさらに推進するための重要な一歩となりました。
1. WBAIがICONIPに参加する意義
ICONIP はアジア太平洋地域を中心に長く開催されてきた神経情報処理に関する国際会議であり、深層学習や脳情報処理、ロボティクスから認知科学まで、幅広い領域の研究者が集まります。
ICONIP2025 は「人・AI・社会の調和」をテーマに掲げ、脳科学から社会実装まで幅広い議論が交わされました。
WBAI は、脳科学の知見をAIに活かす「ヒト脳型AI(Human Brain-morphic AI)」を推進しており、今回は特に、
- 脳型AIの開発手法(BRA駆動開発)の国際的認知向上
- 脳に学ぶAIの意義を世界に再認識させる
- 研究コミュニティとの協働を深める
といった目的のもと、積極的に企画・発信を行いました。
一般の参加者、脳科学やAIに興味のある読者に対しても、WBAI の活動がよりわかりやすく伝わるよう、本レポートでは専門内容も平易に紹介していきます。
2. Tutorial「脳型AIソフトウェア設計の方法論」
「A Methodology for Designing Brain-Like AI Software」
リンク:Tutorial “A Methodology for Designing Brain-Like AI Software” @ICONIP2025 | 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ

■ チュートリアルの概要
チュートリアルタイトル: A Methodology for Designing Brain-Like AI Software
日時: 2025年11月20日(木)10:00-13:00
オーガナイザー: 田和辻可昌(東京大学/WBAI)、山川宏(東京大学/WBAI)、鈴木雄大(東京大学/WBAI)
このチュートリアルは、WBAIが推進する「BRA(Brain Reference Architecture)」を基盤にした脳型AIの開発方法論を体系的に解説する場として企画されました。BRAとは、ヒト脳の情報処理構造をソフトウェア設計に再利用できる形で整理する枠組みであり、脳型AGIを開発する際の”設計仕様書”として用います。脳科学やAIの初学者から若手研究者まで幅広い層を対象に、BRA駆動開発の理論と実践が解説されました。
■ 内容
チュートリアルは3部構成で実施されました。
Part I: Introduction(導入)では、山川宏氏がBRA駆動開発のWBAロードマップにおける位置づけを解説し、田和辻可昌氏がBRA駆動開発の理論的背景を概説しました。BRAデータはBIF(脳の構造的知識)、HCD(機能仮説)、FRG(機能実現グラフ)から構成されます。2027年までにヒト脳に近いAGIの初期設計仕様を策定する目標に対し、現在約12のBRAが存在しますが、ヒト脳の約400の機能領域と比較するとまだ多くの領域が不足しています。この課題解決のため、神経科学者をレビュアーとして巻き込むエコシステム構築の必要性が示されました。
田中康裕氏の招待講演では、これまでに開発されたBRAの具体的事例として、前庭動眼反射(VOR)の脳幹回路、海馬体の空間認識モデル、扁桃体のモチーフ駆動型モデリング、皮質マイクロ回路モジュールなどが紹介されました。また、生理学研究所の南部篤先生との協力による大脳基底核BRAの開発事例も共有されました。一方で、第三者が独自にBRAを作成できる体制(スケーラビリティ)の確保が今後の課題として挙げられました。
Part II: Data Review Exercise(ハンズオン演習)では、「Learning by Reviewing」アプローチにより、参加者がBRAデータのレビューを実際に体験しました。BRAデータ論文の構成とレビュー基準(理解可能性、再現性、透明性)が解説された後、前庭動眼反射を題材としたBRAデータを用いてBIF・HCD・FRGの手動レビューを実施し、解剖学的妥当性・計算的整合性の観点から評価するスキルを実践的に習得しました。
Part III: Data Utilization(データ活用)では、芦原佑太氏がWholeBIF-RDB(全脳情報フローデータベース)について発表し、全脳カバーに向けた投射データの自動収集と、他の研究者が容易に利用・拡張できるツール整備の進捗を報告しました。谷口彰氏は全脳確率的生成モデル(WB-PGM)を紹介し、「どのような認知モジュールを実装すべきか」「それらをどう統合するか」という問いに対し、brain-inspired AIとPGMベースアプローチの2つの方向性を示しました。中島毅士氏はSCID法とGIPAを用いた海馬体に着想を得た空間認知モデル構築と、テレポーテーション条件下でのロバストな自己位置推定研究を紹介しました。
■ 成果と反響
参加者は約10名で、AI研究者、神経科学者、学生など幅広い層が参加しました。特にハンズオン演習では参加者間で活発な議論が行われ、脳科学とAIの統合に向けた国際的な関心の高さがうかがえました。
WBAIとしては、BRAを軸にした脳型AI開発の方法論を初めて国際会議の場で体系立てて発信でき、神経科学者を巻き込むエコシステム構築の方向性を示せたことも含め、大きな意義を持つ企画となりました。
3. Special Session「安全な脳型AIに向けて」
リンク:Special Session “Toward Safe Brain-Inspired AI” @ICONIP2025
■ セッションの概要
セッションタイトル: Toward Safe Brain-Inspired AI
日時: 2025年11月20日
オーガナイザー: 山川宏(東京大学/WBAI)、谷口彰(立命館大学)、中島毅士(立命館大学)
脳型AIを実現するにあたって不可避なのが「安全性」の問題です。本セッションでは、脳科学に基づくAIモデルの透明性や解釈性、そして人類との共生に向けた設計思想について議論が行われました。WBAI代表の山川氏をはじめ、国際的な研究者が登壇し、脳型AI研究の先端と未来を描きました。
■ 研究の紹介
セッションのイントロダクションとして、WBAI代表の山川からは、AIが極めて高度になってもヒト脳型AIが維持しうる価値や特性として、Phenomenal Human Experiencing、脳に基づく解釈可能性、媒介者機能などがあり、これが人類の安全性に結びつくことが述べられました。 [slide]
招待講演では、ARAYAの濱田太陽氏が「Neuro-aligned AI for machine neuroscience」というタイトルで、AIシステムを脳の表象、ダイナミクス、人間の行動と整合させる”Neuro-aligned AI”のコンセプトを紹介しました。濱田氏はOISTでシステム神経科学の博士号を取得し、現在は内閣府ムーンショット型研究開発事業の研究代表者として活動しています。AIを脳のモデルとして扱うことで、高度なAIシステムと人間の神経系を橋渡しする枠組みが提案されました。[slide]
一般講演として3件の発表がありました。
- 「Interpretable Anomaly Detection in a Hippocampal Formation-Inspired Spatial Cognition Model」(中島毅士・谷口彰・谷口忠大・山川宏)は、脳の海馬の構造をモデル化し、異常検知における検知部位を神経科学と対応させることで、異常発生を検知するだけでなく「どのような種類の異常」なのかも推定可能なAIを実現する研究です。 [slide]
- 「Alignment with Psychological Concept Network」(濱田太陽・原田宥都)は、心理学的概念ネットワークを用いてAIの内部表現を人間の概念構造と整合させ、AIの振る舞いをより理解・予測しやすくするアプローチを提案しました。 [slide]
- 「Decentralized Belief Propagation in LLM Agents: A Brain-Inspired Approach to AI Safety Analysis」(林祐輔)は、脳の分散的な情報処理構造を参考に、LLMエージェントの安全性を評価・向上させる手法を提案しました。.[slide]
■ パネル討論
パネル討論では、登壇者3名(濱田太陽氏、林祐輔氏、中島毅士氏)により、”How much must we understand the brain’s mechanisms to create safe, controllable AI?”というテーマで議論が行われました。脳の理解の必要性や制御可能なAIについて、聴講参加者も含めた活発な議論が交わされました。
■ 成果と反響
本セッションは、脳型AIの安全性に関する国際的議論を前に進める役割を果たしました。「脳科学に学ぶことで、安全で透明なAIをどう実現するか」という視点は、現在のAI安全研究に欠けている重要な観点でもあります。
参加者は30〜40人規模で、質問が相次ぎ、「脳型AIの”安全な社会実装”は重要なテーマである」という認識が共有されました。
4. Workshop「第3回 国際全脳アーキテクチャ・ワークショップ」
「The Third International Whole Brain Architecture Workshop」
リンク:The Third International Whole Brain Architecture Workshop in ICONIP2025

■ ワークショップの概要
ワークショップタイトル: The Third International Whole Brain Architecture Workshop
日時: 2025年11月24日(月)9:00-12:00
オーガナイザー: 田和辻可昌(東京大学/WBAI)、山川宏(東京大学/WBAI)
WBAI が主導する脳型AIの国際的研究交流の場として、毎年開催されているワークショップの第3回目です。BRAの普及、脳型AI研究者のネットワーク形成、若手育成を目的としています。
■ 内容
ワークショップでは、BRAを使った脳型AIモデルの実装例、脳科学データを用いたAIモデル構築、認知科学・神経科学・AIのクロス領域研究、脳情報のオープン化と標準化といったテーマの研究が共有されました。
招待講演では、谷口彰氏(立命館大学)が「From Whole-Brain Architecture to General-Purpose Intelligent Robots」というタイトルで、BRA駆動開発の最新動向について講演を行いました。海馬体確率的生成モデルを例としたBRAデータのロボティクス応用の実例を交え、全脳確率的生成モデル(Whole Brain Probabilistic Generative Model:WB-PGM)の開発展望や現状について紹介されました。また、BRAに基づく計算論モデルをロボットに実装し、実証結果をBRAデータにフィードバックすることで全脳モデルをアップデートする構想や、脳と身体性の両面を考慮することの重要性について講演されました。[slide]
口頭発表として5件の研究が共有されました。
- 「Capability constraints reduce implementation search in neural circuits for efficient brain-inspired software design」(丸山・田和辻・山川)は、BRA開発において要件が固定されると実現可能な生物学的パラメータ範囲が制約されるという「Capability-Constrainedness」原理を形式化した研究です。グローバルフィードバック抑制とWinner-Take-All機能をケーススタディとし、実装時のパラメータ探索空間を縮小する手法を提案しました。 (paper)
- 「Data for Brain Reference Architecture of YS25SHCOMv0」(鈴木・刈山・芦原・山川)は、ヒト・マカク・マーモセットの脳アトラスをグラフ構造として表現し、Deep Graph Matching Consensus(DGMC)を用いて種間の対応関係を確立し、階層構造と接続構造を統合することで、ヒト大脳皮質のBIFデータセットを構築した研究です。(data and paper)
- 「Data for Brain Reference Architecture of MI25Imagination」(井上・田和辻)は、想像力に関連する計算アーキテクチャのBRAデータを構築した研究です。大脳新皮質、淡蒼球、基底核-視床複合体、海馬形成をROIとし、Function-oriented SCID法を用いて脳の想像機能をリバースエンジニアリングしました。(data and paper)
- 「Data for Brain Reference Architecture of SK25LHbDepressionModel」(高・田和辻・松井)は、大うつ病性障害(MDD)に関連する脳領域、特に外側手綱核(LHN)に焦点を当てた構造情報データセットです。ニューロン-グリア(アストロサイト)相互作用に基づくLHN回路の接続情報を整理しました。 (data and paper)
- 「Data for Brain Reference Architecture of TM25CILsSpiralingHypothesis」(宮本・田和辻・山川)は、基底核における習慣形成の神経基盤である「スパイラリング仮説」をBRA形式で記述した研究です。目標指向行動から習慣的行動への移行を媒介する線条体黒質線条体(SNS)経路をBIFとして実装しました。(data and paper)
これらのデータはBRAES(BRA Editorial System)を通じて公開されています。
■ パネル討論
パネル討論では、まず話題提供として、これまでのBRAデータによる脳領域カバー状況、およびBCM(Brain Constrained Model)とBAM(Brain Agnostic Model)の関係について紹介がありました。
議論では主に2つの問いが扱われました。
Q1: BRAデータの設計とアーキテクチャ実装の手順について BRAデータを設計する際、WholeBIF(全脳の情報フロー図)に登録されている回路だけでは不十分な場合があります。追加の方法としては、文献からの自動読み込み、他の動物種との対応付けによる仮説的登録、計算論的観点からの仮説的登録などがあることが共有されました。
Q2: モデル選択について(BCM vs BAM) 脳型AIの開発において、BCM(Brain Constrained Model:脳の解剖学的・機能的制約に従うモデル)とBAM(Brain Agnostic Model:脳の制約に依存せず機能実現を優先するモデル)のどちらを選ぶべきかが議論されました。BCMは脳の制約に従うため神経活動などの実験結果との対応付けが比較的容易ですが、実装には多くの制約が伴います。一方、BAMは制約が少ないため実装が比較的容易ですが、自由度が高い分、所望の振る舞いを実現するためのパラメータ探索空間が広くなるという課題が指摘されました。両アプローチにはトレードオフがあり、目的に応じた使い分けが重要であるとの認識が共有されました。
■ 成果と反響
参加者は現地15名・オンライン2名程度で、さまざまな国から研究者が参加しました。BRA駆動開発という新しい手法に対する研究者の興味が高いことが再確認されました。
5. ICONIP2025における研究発表
■ ポスター発表
鈴木雄大氏(東京大学/WBAI)らによる「Estimating Cortical Hierarchy in the Human Cerebral Cortex Using Deep Graph Matching Consensus」がポスター発表されました。共著者は苅山湊氏、芦原佑太氏、山川宏氏です。[slide]
脳型AIモデルを構築するためには、大脳皮質の階層構造(どの領域が情報処理の上流・下流にあるか)を把握することが重要です。この階層構造はマカクやマーモセットなど非ヒト霊長類では詳しく研究されていますが、種間で脳領域の名称が対応しないという問題があります。
本研究では、脳アトラス(脳地図)を、脳領域をノード、脳領域間の隣接関係をエッジ、命名情報を特徴量とするグラフ構造として表現しました。そして、Deep Graph Matching Consensus(DGMC)というアルゴリズムを用いて、異なる種・異なる脳アトラス間での脳領域の対応関係を自動的に推定する手法を開発しました。
具体的には、ステップ1でDGMCを用いてヒト・マカク・マーモセット間の脳領域対応行列を取得し、ステップ2でその対応行列を用いて非ヒト霊長類の階層をヒトの階層に変換しました。
これにより、非ヒト霊長類で詳しく調べられている階層構造の知見を、ヒト脳の理解に活用できるようになります。脳型AI設計の基盤となるWholeBIFの整備に貢献する成果です。
6. 公開フォーラム「人とAIの織りなす社会」
ICONIP2025 Open Forum「人とAIの織りなす社会」(日本語)
リンク:Open forum 公開フォーラム – ICONIP 2025

パネル1の様子、左より、林祐輔氏、濱田太陽氏、山田祐太朗氏、銅谷賢治氏
■ フォーラムの概要
フォーラムタイトル: 人とAIの織りなす社会(Society of Humans and AI Agents)
日時: 2025年11月24日(月・祝)13:00-16:00
会場: 沖縄科学技術大学院大学(OIST)講堂
今日AIは誰もがいつのまにか使っている技術となり、私たちの日々の生活からビジネス、教育、政治、文化芸術、最先端の科学技術まで、AI抜きには語れない時代が来ています。ICONIP2025がOISTで開催される機会に、研究者と市民、学生が一緒になり、これからAIはどう進化するのか、私たちはAIとどう関わっていけばよいのか、AIによる危険や弊害をどう予測し抑えることができるのか、学び合い話し合う公開フォーラムが開催されました。
■ 講演
山田祐太朗氏(Sakana AI)が「ここまできた科学者AI」と題し、LLMエージェント、自己改良型AI、科学的発見の自動化など最先端の研究動向を紹介しました。岡瑞起氏(千葉工業大学、Artificial Life Institute)は「人とAIの共生する社会とは」と題し、人工生命とOpen-Endednessの観点から、AIが人間の創造性にもたらす影響について語りました。
■ パネル討論1「科学するAIと人間社会」
コーディネーター: 銅谷賢治(OIST、ICONIP2025大会長)
パネリスト: 山田祐太朗(Sakana AI)、濱田太陽(ARAYA)、林祐輔(AI Alignment Network)
科学研究を自動化・加速するAI(科学者AI)の可能性と、それが人間社会にもたらす影響について議論されました。全脳ダイナミクス研究や生成AIによるデジタルツイン、AIエージェントの探索と創発に関する理論的研究など、多角的な視点から科学とAIの協働のあり方が検討されました。
■ パネル討論2「人とAIの望ましい関係とは」
コーディネーター: 山川宏(東京大学、AI Alignment Network)
パネリスト: 岡瑞起(千葉工業大学、Artificial Life Institute)、谷口忠大(京都大学、ICONIP2025プログラム委員長)
山川代表は「共生選択論理」という議論構造を提示しました。超知能の出現が不可避であること、人類が超知能や破滅的技術を制御し続けることは困難であることを前提として、「友好的な超知能との共生が、人類にとって最も有望な未来である」という論理です。また、「制御から共生へのパラダイムシフト」を提唱し、従来の一方向的統制から、双方向的な相互作用による協力的秩序への転換の必要性を示しました。[slide]
討論では、AIは「道具」か「自律的なパートナー」か、AIがヒトに対して友好的な価値や倫理を持ちうるか、研究者として「人とAIの望ましい関係」のために何ができるか、といったテーマが議論されました。
■ 成果と反響
本フォーラムでは、「科学するAI」と「共生するAI」という2つの視点から、人とAIの未来が多角的に議論されました。AIが向かう未来は良い方向にも悪い方向にも開かれており、重要なのは「制御する」か「拒絶する」かではなく、「どんな関係を築きたいか」を私たち自身が選ぶことである——このメッセージが、研究者と市民の対話を通じて共有されました。
7. 総括と今後の展望
今回のICONIP2025参加を通じて、WBAIは国際的に次の3点を明確に示すことができました。
1. 脳に学ぶAI(脳型AI)は実現可能であること Workshopでは5件のBRAデータが発表され、皮質階層推定、想像力、うつ病関連回路、習慣形成など、多様な脳機能が具体的なソフトウェア設計仕様として記述できることが実証されました。ポスター発表では異種間の脳領域対応を自動推定する手法も発表され、全脳カバーに向けた基盤技術が着実に進展しています。脳型AIの開発は次第に設計段階から実装フェーズに移りつつあります。
2. BRAという開発手法は国際的に関心を集めていること Tutorialでは約10名、Special Sessionでは30〜40名、Workshopでは現地15名・オンライン2名と、いずれの企画でも活発な質疑が交わされました。「脳のメカニズムをどこまで理解すれば安全なAIを作れるのか」「BCMとBAMをどう使い分けるか」といった本質的な問いが議論され、BRA駆動開発が国際的な研究アジェンダとして認知されつつあることを実感しました。
3. 脳型AIは人類の未来に長期的価値を持つこと Special Sessionでは、ヒト脳型AIが持つ固有の価値として、人間的経験の共有可能性、脳に基づく解釈可能性、人類とAIの媒介者機能が示されました。公開フォーラムでは「制御から共生へのパラダイムシフト」が提唱され、AIが高度化する時代においても、ヒト脳を参照するAIこそが人類との持続的な共生可能性を高めるという展望が共有されました。
特に強調すべきは、ヒト脳型AIの価値は「人類が存在する限り価値があり続ける」という点です。脳は数百万年かけて洗練されてきた情報処理機構であり、その構造を参照するAIは、人類との相性や理解可能性において他のアプローチでは代替できない価値を持ちます。
WBAIは今後も、脳科学とAI研究の架け橋として、そして人類とAIの架け橋として、ヒト脳型AGIの実現を推進していきます。
文献
- Takeshi Nakashima, Akira Taniguchi, Tadahiro Taniguchi, Hiroshi Yamakawa: Interpretable anomaly detection in a hippocampal formation-inspired spatial cognition model, In: Lecture Notes in Computer Science, Springer Nature Singapore, pp. 509–522, 2025. (paper)
- Yudai Suzuki, So Kariyama, Yuta Ashihara, Hiroshi Yamakawa: Estimating cortical hierarchy in the human cerebral cortex using deep graph matching consensus, In: Communications in Computer and Information Science, Springer Nature Singapore, pp. 188–200, 2025. (paper)
- Yohei Maruyama, Yoshimasa Tawatsuji, Hiroshi Yamakawa: Capability constraints reduce implementation search in neural circuits for efficient brain-inspired software design, 3rd. Int. Whole Brain Architecture Workshop, WBA-WS-003-01, November 2025. (paper)
- Yudai Suzuki, So Kariyama, Yuta Ashihara, Hiroshi Yamakawa: Data for Brain Reference Architecture of YS25SHCOMv0, 3rd. Int. Whole Brain Architecture Workshop, WBA-WS-003-02, November 2025. (data and paper)
- Misaki Inoue: Data for Brain Reference Architecture of MI25Imagination, 3rd. Int. Whole Brain Architecture Workshop, WBA-WS-003-03, November 2025. (data and paper)
- Seii Ko, Yoshimasa Tawatsuji, Tatsunori Matsui: Data for Brain Reference Architecture of SK25LHbDepressionModel, 3rd. Int. Whole Brain Architecture Workshop, WBA-WS-003-04, November 2025. (data and paper)
- Tatsuya Miyamoto, Yoshimasa Tawatsui, Hiroshi Yamakawa: Data for Brain Reference Architecture of TM25CILsSpiralingHypothesis, 3rd. Int. Whole Brain Architecture Workshop, WBA-WS-003-05, November 2025. (data and paper)


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