国立情報学研究所の市瀬と申します.WBAI関係者などと共に,汎用人工知能(AGI: Artificial General Intelligence)の実現に向けて,研究を進めております.
汎用人工知能は,従来研究されてきた特定の用途に絞った人工知能とは異なる概念の人工知能で,様々なタスクに適用することができる汎用的な人工知能です.人間は,これまでに経験したことがない領域に対しても,タスクに応じて柔軟に自分の持つ知識を適用し,対応することが可能です.このような能力を持つ人工知能は,従来の人工知能とは異なり,個別のタスクごとに設計する必要がなくなるため,設計コストが劇的に下がることが期待でき,様々な分野への応用も可能です.そのため,社会を変える革新的な技術となることが期待できます.
汎用人工知能という研究分野は,機械学習や知識処理,認知アーキテクチャなど,これまでに細分化されてきた人工知能技術を統合する新たな研究分野です.私は,現在所属している国立情報学研究所の国際交流協定により,汎用人工知能を研究する海外の研究者と交流する機会を得ることができ,汎用人工知能という新しい研究分野を知りました.そのことを,当時から交流のあった現WBAI代表の山川氏と話した所,山川氏もたまたま別ルートで汎用人工知能に興味を持っていたため,意気投合しました.それ以来,日本国内で汎用人工知能を新たな研究分野として確立するための活動を山川氏と共に行ってきました.例えば,Artificial General Intelligenceの趣旨を反映し,和訳を「汎用人工知能」と名付けて広めたり,有志と共に汎用人工知能の研究をサーベイする輪読会を2013年に立ち上げたりしました.この輪読会は,毎月,国立情報学研究所で開催され,現在では大学教員,社会人など多数が参加するコミュニティに発展しています.2018年6月には,50回目の輪読会の開催を予定しています.さらに,汎用人工知能輪読会を母体とし,2015年には,人工知能学会に新たな研究会,汎用人工知能研究会を設立し,日本における汎用人工知能という新しい研究分野の確立を目指した活動を行っています.
人間のように様々なタスクをこなすことができる汎用人工知能の実現のためには,多くの技術的課題があります.しかし,さまざまな人々が協力すれば,これらの課題を解決し,汎用人工知能を実現できるでしょう.WBAIは,そのような活動のための重要なプラットフォームです.今後も,皆様のご支援,ご協力をよろしくお願いいたします.