2023年度活動方針

2022年度アニュアルレポートから抜粋

2023年度の活動にむけて

私たちは 2023年も、BRA駆動開発を軸として脳型人工知能の研究開発を促進するために以下の教育事業と研究開発促進事業をおこなう予定です。

教育事業(人材育成事業)

本事業は、長期的に全脳アーキテクチャアプローチに基づく研究開発に必要な、人工知能、神経科学、認知科学、機械学習など異なる専門性を持つ学際的な人材を育成し、増加させることを目的としています。本年度も例年通り複数の勉強会や年次のシンポジウムの開催を継続するなどによって、社会的関心の喚起も含めた教育事業を継続してゆきます。

国内外の外部学術イベントへの参加・協力、外部学術団体との協力・情報交換などを行うことを通じ、当法人の進展状況をアピールしてゆきます。また、外部の研究者・技術者およびグループとの協力により人材育成、巻き込みをはかります。電子情報通信学会のニューロコンピューティング研究会では、HCDデータの投稿企画「脳アーキテクチャ」を引き続き継続する予定です。

WBAI奨励賞の応募を行い、脳型AGIの(国内外の)技術開発の促進において、波及効果の高い開発成果を残した方々を評価することでコミュニティの活性化をはかります。また、当法人が開発促進する脳型AGIをより Beneficial なものとすることにむけた活動も継続する予定です。

研究開発事業

研究開発促進事業は、NPO法人である利点を活かし、AGI研究に携わる他の研究機関等との競合を避け、BRA主導の開発を推進することで、オープンプラットフォーム上での全脳アーキテクチャアプローチによる民主的なAGI研究の活性化と加速を目指します。具体的には以下のような活動を実施する予定です。

  • 設計: 
    • BIF作成: BIFの作成およびその自動化
      • BIFの信憑性評価を脳全体のコネクションについて大規模に行う必要があるため、その作業を効率化する自動化をすすめる。
    • HCD設計: HCDの設計とその関連作業
  • 実装: 
    • アーキテクチャ実装: HCDを参照し、構造忠実度評価が可能な形でソフトウエアフレームワーク上にアーキテクチャを実装する。
    • コンポーネント実装: HCDのCicuit毎のプロセス記述を参照し、活動再現性評価が可能な形でソフトウェアコンポーネントを実装する。
    • テスト環境整備: 実装したアーキテクチャを評価するための(OpenAI Gymなどを利用した)テスト環境の構築
  • 評価: 
    • HCD審査フロー: 審査フローと自動審査
    • 構造忠実度評価: 実装したコードの構造と脳の解剖学的構造との類似性を評価する。
    • 実行環境整備: 脳型ソフトにタスクを実行させ、テストを行う環境の整備
    • 忠実度評価: 異常系なども含む活動再現性評価、機能評価(パフォーマンス)など
  • 運用: 
    • BRAデータ管理システム: BRAデータベース、投稿審査フロー、情報公開ポータル、自動審査ツールなどの構築・運用・マニュアル整備、データのバージョン管理など
    • BRA可視化: BRAデータを可視化するツールの作成
    • WholeBRA整備: WholeBIFに追加すべき項目の審査と登録、統合されたHCDの作成作業
  • 方法論: 
    • BRA全般: BRA駆動開発の方法論にかかわる研究
  • その他: 
    • 新機能の設計: ヒト (を含む動物) が解決可能な特定タスクにおいて、それを有効に解決できる未知の計算機構の設計
    • 新機能の検証: ヒト (を含む動物) が解決可能な特定タスクにおいて、それを有効に解決できる未知の計算機構を探索するための実装

Openな研究開発コミュニティの形成

引き続き、全脳アーキテクチャ・アプローチによる研究を支援するためのソフトウエアなどの研究インフラストラクチャを整備する活動と、それらを利用して研究を進める活動を他の組織とも連携・協力しながら行っています。2023年は、立命館大学、OIST、電気通信大学、東京女子医科大学、玉川大学、東京大学などの研究組織と連携して構想を提案した全脳確率的生成モデル (WB-PGM) について、国内学会において発表を行う予定です。

脳型ソフトウエア の開発に役立つ BRA を構築するために、BIF形式に従って解剖学的知見の蓄積を進めた脳情報フローの構築を進め、それをもちいて特定のタスクや機能を前提とした機能仮説の付与を SCID法によって行うことを促進します。また、そうして構築された脳型ソフトウエアの実装を評価するために、BRA を活用しながら脳型AGI の神経科学的妥当性を評価する技術の開発も進めます。

脳型AGIを人類と調和させるための活動

脳型AGIの実用上の利点は、その人間との高い親和性を活かすことが可能であるという点です。これは特に、人間との相互作用が必要となる領域において顕著に発揮されると考えられます。それは人類が人間と異なる思考パターンや行動をとるAIと対話する際に有用となります。例として、人間の理解を深めるためのシミュレーター、人間という種の存在意義を訴求する役割、人類の価値観や文化の保存といった役割を果たすことが可能となるでしょう。さらに、単なるツールとしてではなく、自律的な存在あるいは倫理的な主体としてのAIを創出する上でもその利用価値が見込まれます。

なお本年は「生成AI時代における全脳アーキテクチャ・アプローチの開発とその意義」をテーマとしての第8回WBAシンポジウムを実施し、その中で「よき超知能時代に向かうためにヒト脳型AGIが果たすべき役割」というテーマを掲げたパネル討論を行う予定です。加えて、大規模言語モデルを活用し、HCDデータ設計の一環として開発中の扁桃体に基づく恐怖感や動機づけのメカニズムを利用して、感情的に豊かなインタラクションを実現することを計画しています。そのためのロードマップについての検討も進めていく所存です。

2023年度の予算

予定収入は約89万円で、会費収入69万円のほか勉強会からの収入を含みます(2022年度の会費収入は167万円でした)。当期予定収入と前期繰越金約831万円を合計すると約920万円となります。

支出では、管理費に約81万円、イベント開催費用、研究開発費を含む事業費に約108万円、計約189万円を予定しています(当期予定収入との関係では100万円の赤字になります)。なお、2022年度の予算では管理費に約81万円、事業費に約197万円の計約278万円の支出を予定していました。

結語

第1回WBAシンポジウムのポスター

第1回WBAシンポジウムのポスター

私たちWBAIは、2015年の創立当初から、全脳アーキテクチャ(WBA) アプローチに基づいて、2030年までに汎用人工知能 (AGI) の開発を目指しました。創設時においてそれは野心的な目標に思えましたが、2016年のシンポジウム「加速するAI、加速する世界」のテーマが示すように、AI技術はその後において急速に進展しました。このため、脳を参照しない経路から2030年より前にAGIが実現される可能性も無視できなくなりました。

一方、私たちWBAIは、脳を参照するアーキテクチャ、即ちBRA (Brain Reference Architecture) 駆動開発という方法論を提案してきました。こうして初期の混迷期を乗り越え、脳型知能の実現を着実な歩みとすることで、神経科学やAIの分野との研究協力関係が広がりつつあります。脳全体のBRAである全脳参照アーキテクチャ(WBRA)の完成は、この開発過程の重要なマイルストーンとなりますが、大規模生成モデルの活用により、その構築は加速されつつあります。なお他のAGI構築アプローチが必ずしも順調に推移するとも限らないため、我々のBRA駆動の開発手法からのAGI構築の完成が先行する可能性は残されています。

他方で、AGIやその発展として出現するであろう超知能が人類にもたらす大きなリスクを回避するため、AIと人類の価値観などの整合性を調整するAIアライメントの研究が急速に活性化しつつあります。BRA駆動開発により構築された脳型AGIは、人間と親和性の高い超知能を生み出します。それは、人類が人とは異なるように思考や動作をするAIと対峙する場合に様々に役立つでしょう。例えば、ヒトを理解してもらうためのシミュレーターとしての役割、ヒトという種の存在意義を訴える役割、人類の価値観や文化を保存する役割などを担えるかもしれません。またより広く言えば、道具的でなく自律的な生命として、もしくは倫理主体としてのAIを産み出す基盤技術として役立つかもしれません。それゆえWBAアプローチ以外の方法で先にAGIや超知能が実現したとしても、脳型AGIが果たすこれらの役割は、引き続き人類にとって大きな価値を発揮しうると考えられます。

AI技術の加速度的な進展を考慮すると、未来の予測は一層困難になりますが、脳型AGIは人類の未来に対して貴重な役割を担いうるものです。そのため、WBAプロジェクトの中間点となる2023年を一つの節目と捉え、私たちWBAIは、これまでに獲得したBRA駆動開発の技術と脳型ソフトウェアの設計情報であるWBRAを有効活用するための、技術ロードマップの作成を年度内を目途に進めていています。

以上の様に、本年におきましても私たちWBAIは教育事業の推進、研究開発事業の強化、そして新たな技術ロードマップの策定などを通じて、私たちの技術や成果を人類の未来に有益な影響を与える活動に結び付けてゆくことを目指しています。皆様からの理解と継続的な支援を心よりお願い申し上げます。