全脳アーキテクチャ・アプローチでは、脳における多様な学習能力に対する理解にもとづいた汎用人工知能の構築を目指しています。
このアプローチが可能になった背景には、脳の大脳新皮質に対応づけうる深層学習が5年ほど前から急速に発展を遂げたことがあります。一方で近年は神経科学の発展も著しく、これらの知見を活かすことで現状の深層学習を超えた情報処理が行える可能性も有ります。そこで今回は「(仮)深層学習を越える新皮質計算モデル」をテーマとして勉強会を企画しました。
物理学者の松田卓也先生からは、工学的な人工ニューラルネットワークよりも詳細な神経科学知見を取り入れ、最近になって研究成果の発表が続いた、 ジェフ・ホーキンスらによるHierarchical Temporal Memoryについてご紹介いただきます。さらに理研BSIの谷藤学先生からは神経科学の観点から、視覚情報処理の最新知見の紹介や、それらを踏まえた情報処理の計算モデルに関わる研究成果などにつき、ご講演いただきます。また最後には演者を交えたパネルディスカッションも予定しております。
勉強会開催詳細
- 日 時:2016年5月18日(火) 18:10~21:00 (17:40開場)
- 場 所:パナソニック株式会社パナソニックセンター東京1階ホール
〒135-0063 東京都江東区有明3丁目5番1号 http://www.panasonic.com/jp/corporate/center/tokyo/access.html
(株式会社パナソニック様のご厚意による会場ご提供) - 定 員:330名(定員に達し次第締め切らせて頂きます)
- 参加費:無料
- 主 催:NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
- 協 賛:パナソニック株式会社
- 後 援:株式会社ドワンゴ
講演スケジュール
18:10 – 18:15「パナソニック株式会社様よりご挨拶」
18:15 – 18:30「オープニング」(ドワンゴ人工知能研究所 山川宏氏)
発表資料:深層学習を越える新皮質計算モデル
18:30 – 19:20「大脳新皮質のマスターアルゴリズムの候補としてのHierarchical Temporal Memory (HTM)理論」松田卓也(NPO法人 あいんしゅたいん)
発表資料:大脳新皮質のマスターアルゴリズムの候補としてのHierarchical Temporal Memory (HTM)理論
汎用人工知能の基本アルゴリズムとしては大脳新皮質をリバースエンジニアリングするのが近道であろう。ジェフ・ホーキンスによれば脳は常に一瞬先を予測しているという。ここでは新皮質のマスターアルゴリズムの候補としてホーキンスの提案するHierarchical Temporal Memory (HTM)理論を解説する。HTM理論の最大の特長は時間の重視である。その意味でHTM は隠れマルコフモデルを始めとするダイナミックベイジアンモデルとの親和性が強い。まずHTM理論の歴史を述べ、第一世代のゼータ1アルゴリズム、第二世代のCortical Learning Algorithm (CLA)、最新のGen3アルゴリズムについて解説し、CLAと神経科学の関係を述べる。CLAのニューロンはANNとは異なり、3種類の樹状突起をもち、多数のシナプスを備えている。新皮質の6層構造との関係も述べる。さらに最近明らかになってきたHTM の数学的基礎について述べる。
19:20 – 19:35 休憩
19:35 – 19:40 創設賛助会員プレゼン 「機械学習には本当に大量のデータが必要か?」株式会社Nextremer 古川朋裕氏
19:40 – 20:30 「サル高次視覚野における物体像の表現とそのダイナミクス」 谷藤学(理研BSI)
発表資料:「サル高次視覚野における物体像の表現とそのダイナミクス」
私たちが目にする物体像には視点、向き、自然な形状の変化などによって様々な「見え」がある。同じ人物の正面の顔と側面の顔のように、同じ物体でも画像としては全く異なる場合すらある。それにも関わらず、私たちが不変的に物体を認識することができるのは、脳の「物体表現空間」の中で、同じ物体像であれば近いところに、違う物体像は離れて表現されているからだと考えるのは自然であろう。この空間を構成する各軸は、高次視覚野の細胞が物体像から検出している図形特徴である。その図形特徴を決めることが、不変的な物体認識に本質的である。講演の前半では、この図形特徴を決める試みについて紹介したい。
さて、福島邦彦のネオコグニトロンに起源をもつDeep Convolutional Neural Network (DCNN)は、物体像のカテゴリ弁別に優れたネットワークとして着目されている(Krizhevsky, et al., 2012)。DCNNの物体表現層の特性は、脳の「物体表現空間」に対応するのかもしれない。実際、DCNNの物体表現層の応答特性とサル高次視覚野の細胞の物体像に対する応答特性との間には高い相関があるという報告もある(Yamins, et al., 2014)。しかし、このような見かけの類似性からDCNNは脳のよいモデルになっていると考えてよいのだろうか?現在のDCNNは自然画像の持つ統計的な性質に基づくスタティックなパターン分類である。これに対して、ヒトの物体認識は目的に応じてダイナミックに変化するプロセスであるように思われる。たとえば、ヒトの物体認識には空間的な注意は重要な役割を果たしている。私たちは、注意をあちこちに向けることで様々な物体が混在する自然画像の中で目標となる物体を探索する。また、注意を向けている場所にある物体像は、注意を向けていない場所の物体像と比較して容易に検出できることも心理学実験により示されている(Posner, 1980)。DCNNとは違って、霊長類の視覚情報処理はダイナミックで、脳の「物体表現空間」における物体像の表現もまた目的に応じて変化するのでないだろうか。私たちは、特に、空間的な注意に着目し、それが、高次視覚野の細胞の特性に与える影響について研究している。その話を後半でしたい。
20:30 – 20:50 パネルディスカッション
発表資料:パネルディスカッション
パネリスト: 松田卓也氏、谷藤学氏、一杉裕志氏
モデレータ: 森川幸治氏
パネルディスカッションの進め方
・ 最初に一杉さんから簡単な研究紹介
本日のトピック(新皮質計算モデル)に関して
・ 以後は基本的には会場からの質疑で進めます
※時間があれば、以下のトピックで議論
1.現状:新皮質の計算モデルはどこまで解明され、
どこまで実装可能になったか
2.課題:まだわからない点、研究が必要な点は?
新皮質以外の部位の計算論における役割は?
3.将来:汎用化のマスターアルゴリズムの解明と
実現の時期は?
21:00 – 23:00 懇親会(自由参加)
本勉強会の報告書はこちらでご覧頂けます。
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