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第31回 全脳アーキテクチャ勉強会〜予測する脳と主体性の現象学

Vimeo にて録画を有料配信中

概要

「予測する脳」(予測誤差最小化機械としての脳)のモデルは、脳を構成する局所神経回路の機能をよく説明している。しかし、こうした無数の局所神経回路がどのよう統御されて脳が全体として単一の主体性を示しているか?という難問が残っており、これを解決せねば、全脳アーキテクチャーと呼べるような人工機械知能にはたどり着かないだろう。今回の勉強会ではこの難問に対して有効なアプローチを考えたい。 手がかりの1つ目は、自由エネルギー原理(予測する脳を説明する確率計算原理)のひとつの帰結として得られるマルコフブランケットのアイディアである。これによれば動的な予測誤差最小化計算の立場からシステムの内側/外側を定義することができる。2つ目はオートポイエーシスシステム論である。システムの内側/外側を決める境界と、その生成原理に着目することで、離散システムからボトムアップで主体性が作られるさまを理解できるかもしれない。3つ目は、知覚と行動との一体的生成を議論するエナクティビズムである。行動主体の単一性が知覚主体の統一性を保証するのかもしれない。4つ目は、現象学の派生として生まれた媒介論である。これは、意識や主体性などを科学とも親和的な仕方で現実のなかに位置づけようとする考え方である。主体性や単一性など人と関わる人工知能を作ってゆくさいに重要ながら深刻な内部矛盾をつくりかねない概念を精確にとらえるのに役立つだろう。 こうした意欲的な話題を扱うために2020年4月に発足した研究組織である「北海道大学CHAIN」の中心人物をお招きして、入門・基礎的な講義をいただいたうえで、そもそも論から議論したい。

開催詳細

  • 日 時:2020年10月23日( 金) (18:00~21:00)
  • 会 場:オンライン Zoomウェビナー
  • 参加者:約130人(スタッフ・関係者含む、学生枠約40名)
  • 主 催:NPO法人 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
  • 運 営:WBA勉強会実行委員会
  • 協 賛:北海道大学CHAIN

講演スケジュール

時間 内容 講演者
17:55 開場
18:00 開会の挨拶 山川 宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)
18:05 趣旨説明(資料 大羽 成征(ミイダス株式会社HRサイエンス研究所)
18:20 自由エネルギー原理からエナクティビズムへ(資料 吉田 正俊(北海道大学)
19:10 休憩(10分)
19:20 「境界のない外」をどう考えられるか?──現象学の観点から(資料 田口 茂(北海道大学)
20:00 ディスカッション 大羽 成征(モデレーター)、吉田 正俊、田口 茂
20:55 Closing Remark 藤井 烈尚(実行委員長)
21:00 終了
21:15 懇親会 オンライン

自由エネルギー原理からエナクティビズムへ

講演者:吉田正俊(北海道大学 CHAIN 特任准教授)

概要: フリストンの自由エネルギー原理の最新版を紹介した上で、そこでの中心概念である「自律性」について、オートポイエーシス論やエナクティヴィズムについて紹介しながら考えを深めてゆく。

「境界のない外」をどう考えられるか?──現象学の観点から

講演者:田口茂(北海道大学 CHAIN 教授)

概要: 科学が意識や主体性を扱うのが難しいのは、意識や主体性と呼ばれるものと、物理的なプロセスとの間に、きちんと見える形で境界線が引けないからではないか? 境界線は見えないのに、意識には「外」がある。そのような「境界のない外」をどう扱うかが、科学的に意識や主体性を考える際のポイントになるように思われる。考えてみると、統計学においても、「真なる分布」は決してわからないにもかかわらず、決定的な役割を果たしている。そのような「わからないもの」との関係をどのように概念化できるかを、現象学・オートポイエーシス・エナクティヴィズムを手がかりに考えてみたい。

運営スタッフ

  • プログラム委員長:大羽 成征
  • 実行委員長:藤井 烈尚
  • 司会:山川 宏
  • Zoomウェビナー担当:生島 高裕、荒川 直哉、孫 暁白
  • connpass:孫 暁白、中村 真裕