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第9回全脳アーキテクチャ勉強会〜実世界に接地する言語と記号〜

概要

全脳アーキテクチャ勉強会では,毎回脳の機能の一部に注目し,神経科学,機械学習などの関連分野の専門家をお呼びし,脳の機能の実現方法の何がわかっていて何がわかっていないかを明らかにしていきます.


今回のテーマは「実世界に接地する言語と記号」です.

まず背景として,言語を扱いうる知能を実現するためには,高次の概念やその関係を抽出し,それを記号と結びつけた上で,文法等に従った記号操作を行う能力が求められると思われます.しかし,こうした能力を工学的に実現するのは容易ではなく,現状の人工知能や機械学習における現実世界のデータと記号や言語とのつながりは,人間に比べて極めて貧弱なものです.

しかし近年においては,神経科学の知見が急速に蓄積され,深層学習からは基本的な概念の獲得に成功するだけでなく,文法を扱う試みなども始まっています.そこで,今回の勉強会では,こうした背景を踏まえ,「実世界に接地する言語と記号」を主たるテーマとして開催します.

 

開催詳細

  • 日 時:2015年2月4日(水) 18:00~21:00(開場: 17:40~19:00)
  • 会 場:グラントウキョウサウスタワー 33FセミナールームE
  • 参加者:約200人(スタッフ・関係者含む)

 

講演スケジュール

時間 内容 講演者
18:00 オープニング 山川宏(ドワンゴ人工知能研究所)
18:10 脳内視覚情報処理における物体表現の理解を目指して:Deep neural networkの利用とブレイン・マシン・インタフェースへの応用(資料 林隆介(産業技術総合研究所システム脳科学研究グループ)
18:50 記号創発ロボティクス:内部視点から見る記号系組織化への構成論的アプローチ(資料 谷口忠大(立命館大学情報理工学部)
19:30 休憩(10分)
19:40 脳科学から見た言語の計算原理 酒井邦嘉(東京大学大学院総合文化研究科)
20:20 全体討論
20:40 フリーディスカッション
21:10 懇親会

 

脳内視覚情報処理における物体表現の理解を目指して:Deep neural networkの利用とブレイン・マシン・インタフェースへの応用


講演者:林隆介(産業技術総合研究所システム脳科学研究グループ)

概要:視覚情報は,大脳皮質の各視覚領野において階層的に処理され,物体認識を生み出すに至ると考えられている.しかし,中~高次視覚野でどのような情報符号化が行われているのか未だ明らかではない.こうしたなか,画像認識研究で飛躍的に進歩している,大規模な多層ニューラルネットワーク(DNN)を用いたアプローチが注目される.本発表では,DNN各 層の視覚情報表現とサルの脳から記録した神経活動パターンを比較することで,DNNの高次層の情報表現が,下側頭葉の神経細胞による情報表現に類似していることを示し,さらに,自然言語における物体概念表現の類似性を示す.こうした結果をもとに,視覚的メタファーの神経基盤について議論するとともに,神経情報から想起している視覚イメージを復号化するブレイン・マシン・インタフェース技術への応用研究を報告する.

 

脳科学から見た言語の計算原理


講演者:酒井邦嘉(東京大学大学院総合文化研究科)

概要: 言語は人間の脳に備わる本能であり,文法に基づいて文の「木構造」が生成される.これまでの脳研究で,文を理解している時の脳活動を測ることにより,文法に特化した場所(文法中枢)が明らかになっている.最近我々のグループは,文法中枢を含む複数の脳部位(言語野)の活動が,文の木構造の「併合度」に従って変化することを見出した【PLOS ONE 8, e56230, 1-16 (2013)】.講演では,脳における言語の計算原理について議論したい.

 

全体討論


概要: 実世界に接地する言語や記号を,人間並みに扱い得る人工システムの実現にむけての課題と,人間の脳がそれをどのように実現しているか等について議論する.