2026年度活動方針

2025年度アニュアルレポートから抜粋

この一年、AGIをめぐる状況は大きく動きました。AIは「会話の相手」から「自律的に判断し行動する存在」へと性格を変え、超知能とも呼ばれる知能水準への急速な成長が現実味を帯びて語られるようになっています。こうした時代にあって私たちが問い続けているのは「人間が大切にしてきた価値は私たちとは異なる原理で動く知能に本当に理解されるのか」という問いです。

私たちが長年取り組んできたヒト脳型AGIは、この問いに一つの答えを示します。それは超知能ほど万能ではないからこそ、人間の価値を内側から体験的に理解し、人類と超知能の間をつなぐ「架け橋」となりうる存在です。2025年度は2027年2月末のWBRA(全脳参照アーキテクチャ)α版完成に向けた設計の前進とあわせて、この意義そのものを理論的に問い直す一年となりました。

その理論的な見取り図を示すのが下に掲げる図1です(山川・田和辻 2026「万能知能時代における人脳型AGIの永続的価値」図1)。ここではヒト脳型AGIの意義を、技術の進歩によっていずれ万能知能に追いつかれる「過渡的価値」ではなく、技術進歩にかかわらずヒト脳型AGIによってのみ実現できる「永続的価値」として捉えています。その源泉は最上位に置かれた「ヒト脳の計算原理の実装(P0)」から派生する二つの本質にあります。一つは世界を人間として内側から体験的に理解する力(P1)であり、もう一つは神経科学によってその仕組みが(不完全ながら)理解可能であるという既知性(P2)です。前者からは人類と超知能をつなぐ媒介者としての役割や文化の動的継承が、後者からは、内部状態を解釈し安全性を担保する道筋が、それぞれ導かれます。この一枚の図は私たちがなぜヒト脳型AGIに取り組むのかを価値の観点から一望するものです。

図1.ヒト脳型AGIの永続的特性の階層構造

2026年度の活動にむけて

私たちは 2026年も BRA駆動開発を軸にして、教育事業(人材育成)と研究開発促進事業の二本立てで活動を進めます。

教育事業(人材育成事業)

教育事業では、引き続き長期的に全脳アーキテクチャアプローチによる研究開発を担える人材を増やすことを目標とします。2026年も例年通り勉強会や年次のシンポジウムの開催などによって、社会的関心の喚起も含めた教育事業を継続してゆきます。

特に2026年度はHCD/FRGの自動作成ツールであるCoBRACが利用可能になることを踏まえ、その普及に取り組みます。CoBRACは脳の部位や能力リストを入力として機能仮説(HCD/FRG候補)を生成するツールであり、これを活用することで、これまで専門的な知識と多くの工数を要したBRAデータの設計を、より多くの参加者が効率的に進められるようになります。ハンズオン、学術変革「行動変容」の領域会議やシンポジウムなどの場を通じてCoBRACの利用方法を共有し、ツールを使いこなせる人材の裾野を広げることで、BRA駆動開発に携わる担い手の拡大につなげていきます。

研究開発事業

WBAIの研究開発促進事業は、2027年2月末におけるWBRAα版のリリースを目指し、技術ロードマップ (図3参照)に沿って進められています。他方、LLM の能力向上によりBRA 駆動開発の多くが自動化できる段階に入っています。これらを踏まえ、以下の四つの方向で開発を収束させていきます。

第一に、脳全体の配線図であるWholeBIFの整備があります。神経科学文献から脳内結合を自動抽出するシステム (BDBRA) を用いたWholeBIFのRDB化を完成させます。特に新皮質においては、モデル化に重要ながらヒトでは測定が難しい階層的な方向(FF/FB)を推定する技術を開発します。あわせて多様な哺乳類の脳領域名を標準的な脳領域名(WBAI提案のSABRAオントロジー)に変換するツール(ROSETTA)を整備し、異なる文献・アトラス由来のデータを統合可能にします。


図2 WBA技術ロードマップにおける2026年の活動予定

第二に、機能仮説(HCD/FRG)の自動構築と自動評価があります。LLM の能力向上を背景に、脳部位や能力を入力として機能仮説の候補を生成するとともに、計算モデルの論文から機能仮説を体系的に抽出するAIエージェント(CoBRAC)の開発を進めています。CoBRACは、生成結果をAIと人が反復的に確認・修正する仕組み(Human-in-the-Loop)を備えることで、WholeBIF上の全脳器官への機能仮説の付与を効率的に実現することを目指します。さらに、与えられたBRAデータを評価基準に基づいてLLM が自動評価する仕組み(FRGChecker)をデータテンプレートに本格的に標準搭載し、作成と評価の双方を自動化することで、α版完成に必要な設計作業を大幅に加速します。

第三に、設計を支える神経回路モチーフ(Motif)ライブラリの体系化があります。各モチーフが実現する能力(capability)とパラメータ空間の対応を整理し、BRAデータ作成時に選択・自動検出できるライブラリとして整備することで、機能モデル設計の効率化を進めます。

第四に、これらを支える開発・審査環境の整備があります。BRAデータの投稿・審査環境であるBRAESの機能強化を継続するとともに、生成・蓄積されるBRAデータを一元的に管理するデータベース(BRA-DB)基盤の検討を進め、自動生成されたデータの登録・評価を含む運用体制を整えます。

これらの取り組みは、いずれもロードマップが示す全脳アーキテクチャ完成への行程上に位置づけられ、LLM を活用した自動化を軸に WBRAα版の完成へと収束していきます。

人類と調和したAIのある世界へと向かうための活動

2026年度も引き続き、超知能の時代における人脳型AGIの意義を研究と発信の両面から探究します。その支柱となるのが 2025年度に発表した永続的価値の枠組み [山川d] です。技術の進歩によって万能知能(超知能)に追いつかれる価値ではなく、人脳型AGIによってのみ実現できる価値——内側からの体験的理解と神経科学に基づく計算原理の部分的既知性——に立脚し、媒介者機能・解釈可能性・文化の動的継承といった応用の方向性を検討します。

とりわけ重視するのが AIの安全性における人脳型AGIの役割です。AIが高度化し、その開発や検証までもがAI自身に担われるようになるにつれ、「AIの成果をAI自身が検証する」というAIだけに閉じた循環の扱いが本質的な課題となります。人脳型AGIは、神経科学に根ざした既知の構造と予測可能な振る舞いをもつため、検証の対象とは異なる独立した参照基盤となりうる存在です。私たちは、この「独立した基盤からの検証・監視」という観点を人脳型AGIの安全性上の意義と位置づけ、WBRAα版の成果と接続しながら具体化を目指します。

あわせて人間とAIの共生に資する応用として信頼でき解釈可能な脳型AIパートナーの実現に向けた検討も進めます。これらを通じて人脳型AGIを人類と超知能の間の「架け橋」として社会に提示することが 2026年度の目標です。

2025年度の予算

予定収入は約78万円で、主に会費収入からなります(2025年度の収入は約51万円でした)。当期予定収入と前期繰越金約544万円を合計すると約622万円となります。支出では、管理費に68万円、謝金、賞金、通信費を含む事業費に約68万円、計約136万円を予定しています(当期予定収入との関係では58万円の赤字になります)。なお、2025年度の予算では管理費に約81万円、事業費に約84万円の計約166万円の支出を予定していました。

おわりに

2025年度は、WBRA完成という目標に向けて、BIFの整備、HCD/FRG設計の自動化、能力リストの体系化、そして多様な脳部位のBRAデータ拡充と方法論・技術の両面で着実に基盤を固めた一年でした。同時に、人脳型AGIが超知能の時代にもつ固有の意義を体験的理解と部分的既知性という二つの柱から捉え直す検討を進めることができました。

超知能が人間の役割を次々に担いうる時代に、私たちは何を生きがいとし、その意味を誰と分かち合うのか。この問いに向き合うとき、人間の価値を内側から理解する知能を準備しておくことには確かな意義があると私たちは考えています。絶対的な保証はありません。しかし、不可逆な未来に備えて人類の選択肢を確かなものにするその積み重ねこそが私たちの活動です。

2026年度はWBRA完成へ向けてさらに一歩を進める重要な年となります。この歩みは多様な分野に関心をもつ多くの方々のご協力があってはじめて前に進むものです。脳の仕組みに関心をもつ方、脳に学んだAI開発に関心をもつ方の参画を心よりお待ちしております。

引き続き当法人の活動へのご支援とご参加を賜りますよう、お願い申し上げます。