2018年度活動方針

[vc_row 0=””][vc_column][vc_column_text 0=””]汎用人工知能開発組織(当NPO法人を含む)が数多く立ち上がった2015年から3年が経過した現在、汎用人工知能の研究開発において、継続的に活動が目立つのは、深層学習からの発展を活かしてさまざまな課題に取り組む方向性です。こうした技術開発を主導する代表的な組織としては、DeepMindとOpenAIがあります。これらの組織では潤沢な資金を獲得して、世界中から優れた研究者・エンジニアを集めることで研究開発をリードしています。

図1に示すように、民間企業であるDeepMindは脳型AIの経路から汎用人工知能の開発を精力的に進めており、非営利組織であるOpenAIは非脳型AIの経路からやはり技術開発を進めています。これらに対して、600万円/年程度である当NPO法人の予算は極めて脆弱であり、DeepMindやOpenAIとは数千倍の開きがあります。当NPO法人と連携する組織(ドワンゴ・理研など)による実質的な下支えを含めても10倍程度であり、そこには依然として数百倍もの大きな開きがあります。


図1: 汎用人工知能の観点からみる世界的なAI開発状況

当NPO法人は非営利組織としての特徴を活かした「開発促進」に注力しています。他組織と同じ様に機械学習をベースとした開発となっていますが、DeepMindよりも神経科学知見をやや詳細に反映させる開発方針です。現状では多くのAI開発は企業内における特化型人工知能の開発です。

こうした状況ではありますが、私たちのような非営利組織が「人類と調和した人工知能のある世界」というビジョンを掲げ、人類に資する汎用人工知能の「開発促進」を長期的に維持することには重要な意義があります。

将来において、多種多様な人工知能の結合体がほとんどの知的活動や生産活動を行い、そこから多くの恵みが生み出されることが想像されます。それらの恵みを未来の人々が遍く享受できる状況に導くには、AIの結合体を全人類社会にとっての公僕とすべきです。これは行政を司るだけでなくあらゆる恵みをもたらすシステムとしての公僕です。そのためには、AIの結合体において中心的な役割を果たす汎用人工知能の構築を多くの人々により民主的に共同開発し、その技術の独占/寡占状況を防ぐべきです(図2参照)。

こうした状況に導くには、自らAGI技術を開発するよりも、むしろ「民主的な開発を先導・促進」することでレバレッジを効かせることが考えられます。そしてこの種の社会的使命を達成する活動は、利益配当を行わない非営利組織においてより純粋に追求できます。


図2:重点化する脳型AIの開発環境の構築(2018年度時)

当NPO法人は、脳型AGIの開発を促進することで、こうした役割を果たそうとしています。

脳型AGIの開発では、ある段階まで脳に似せることで汎用人工知能に到達することが保証できます。しかし、現在までの全脳アーキテクチャ・アプローチの試みにおいて、以下の三つの課題があることが明らかになってきています。

  • ロードマップ:汎用人工知能が持つべき能力およびそれを評価するタスクを列挙しがたく、開発の全体像が見えないため、汎用人工知能の実現に到達する効率的に計画を構築できないという課題
  • 特化の罠:脳アーキテクチャ上で共同開発していても、その中の個別開発プロジェクトでは特定のタスクセットに向けてシステムを構築するため、それら成果を集約しても、特化型AIの束にしかならず、汎用人工知能にたどり着けないおそれがあるという課題
  • 人材と知識:人工知能(AI)・機械学習(ML)の専門家(研究者、エンジニア)の多くにとって脳の仕組みについての知識を十分に習得することが困難であるため、神経科学知見を活かした活かした開発が困難であるという課題

当NPO法人は、こうした脳型AGIの開発方法の課題を克服することで、開発を促進しようとしています。上の2つはAGI開発で一般的に生ずる課題ですが、我々はこれに対して脳型アーキテクチャを足がかりとして解決しようとしています。三つ目の人材と知識の課題は、脳型AGI開発に固有の最も大きな課題であり、この部分を突破しなければWBA開発を進めることはできません。以前は、神経科学と人工知能・機械学習の両方の知識を併せ持つ技術者を勉強会やハッカソンなどを通じて人材育成することで、この課題を突破することを目指し「エンジニア一万人計画」(2016年度)を設定しましたが、実際に人材を集めることは困難でした。このため、2017年度からは神経科学分野の知識をAI/ML専門家に理解できるように翻訳する方向へと舵を切ることになりました。

2018年度も全体的な方針として、脳に学んだ安全な汎用人工知能開発を先導・促進し、長期的に大規模で民主的な開発の礎とするためにのため開発手法(技術やノウハウ)の洗練をすすめ、基盤を構築してゆきます。そして、ハッカソンなどの民主的な開発の場において、生物学的妥当性の高い形で脳型AIの一部が構築できる段階を目指します。よって、現状の重点領域における三つの課題への対応は以下となります。

「人材と知識」の課題を解決するためには、神経科学知見を学び、脳型AIの開発に役立つ情報として整備します。この作業は、神経科学分野における研究成果を参照するだけでなく、連携を強化しつつある神経科学者からの専門的アドバイスを受けながら進めます。これはつまり神経科学知見から脳型AIの仕様書へと翻訳する作業です。

「ロードマップ」の課題を解決するためには、開発の全体像と最終到達点について検討し、何らかの形にしていく予定です。さらにこれは開発の進展を測定するためのタスクと評価指標の整備を含むものとなります。

「特化の罠」という課題を解決するために、脳を利用した一種のリファクタリングをおこないます。つまり、異なる開発プロジェクトで、異なる計算モジュールが作られたとしても、それが同じ脳器官に相当するなら、マージするかたちでリファクタリングを行います。

重点領域以外にも、これまでのように教育事業を進め、共同開発のためのソフトウェア・プラットフォームを拡充し、汎用人工知能が有益な形で使われるようにするため、当NPO法人が定めた基本理念の波及範囲の拡大に努め、それらを共有しうる個人や組織を増やし、汎用人工知能技術を開発できる良識あるエンジニアを増やしてゆくことも目標とします。

教育事業

前年度の活動を継続し、複数回の勉強会と年次のハッカソンを開催すること、年次のシンポジウムを開催することとします。

研究開発事業

促進型研究開発

当NPO法人は、全脳アーキテクチャ・アプローチによる研究を支援するためのソフトウェアなどの研究インフラストラクチャを整備する活動を行っています。以下のいずれも、外部研究機関の研究を支援する形で進められています。

一つは(全脳アーキテクチャ構築のための)統合ソフトウェアプラットフォーム開発を行います。

もう一つは、神経情報学(neuroinformatics)です。神経科学知見を学びそれを脳型AIの開発に役立つ情報として整備します(知識と人材課題)。

機能マップ作成

汎用人工知能の研究開発を促進する上で、汎用人工知能が完成するまでの道筋を見通せるようになることは重要です(ロードマップ課題)。このため、外部研究者と協力しながら汎用人工知能に必要な認知機能(能力)を分解して整理する作業を行います。

スタブ駆動型開発

脳型汎用人工知能の研究開発ではさまざまなモジュールが必要になります。最初からすべてのモジュールを機械学習で実装することは難しいため、最初は学習機能を持たないモジュールを実装し、適宜機械学習に置き換えていくような開発方法を試します。この際に脳の制約を使って構築するシステムを統一することを目指します(特化の罠課題)。

Requests for Research(研究提案)作成

2017年度パートナーとなった汎用人工知能研究団体 ProjectAGI(https://agi.io)とともに脳型汎用人工知能についての Requests for Research(研究提案)を作成していくことにします。研究提案も汎用人工知能の実現にいたる道筋を示す役割を持っています。

国際学術イベントのサポート

2018年度も全脳アーキテクチャアプローチと親和性が高い BICA(Biologically-Inspired Cognitive Architecture) 会議を後援します。

将来において、民主的なAGI開発を拡大するため、数年後にはAI/MLの専門家が円滑に脳型AGIの共同開発を行えるような統合的な開発環境を構築したいと考えています。そのために、2018年度は上記の研究開発事業を推進しながら、その基本構想づくりに着手します。

おわりに

当NPO法人が設立された2015年には世界的に汎用人工知能開発が活性化し、現在に至るまで、いくつかの組織において活発な研究が継続されています。しかしながら、汎用人工知能というゴールに到達するための研究開発戦略の構築には難しさがあり、その完成にはまだ時間を要しそうです。こうした中で私たちの開発戦略は、脳全体のアーキテクチャ上で汎用人工知能を構築するというもので、これは世界的に見ても独自性の高いものです。この戦略では神経科学を開発に取り込む点で難しさがありますが、私たちはここ数年の経験を通じて次第に脳型AI開発の進め方について見通しを得つつあります。この戦略では、一旦脳型汎用人工知能の開発が本格的に進み出せば、徐々に脳に似せるように精緻化することでいずれ汎用人工知能に到達しうる上、神経科学から得られる最新の知見が常に開発を後押しします。

こうした状況において、人類と調和した汎用人工知能の実現を目指す当NPO法人としては、Beneficialな脳型汎用人工知能の民主的な開発を先導することは大きな意義を持ち、それゆえレバレッジが効くと考えます。そこで2018年度においても、脳型汎用人工知能の開発手法を研究し、その開発の場を提供し、開発を支える人材を育成してゆきます。

これまでも、企業・投資家・NPO法人・政策立案者・研究者・技術者・サポータなどの皆様より当NPO法人の活動に多大なるご協力・ご支援をいただいております。これに深く感謝するとともに、今後はさらにコミュニケーションを深めながら、皆様と共にさらに前に進んでゆきたいと考えております。[/vc_column_text][/vc_column][/vc_row]