深層学習を中心とした2010年代の知能研究の急速な進展を経て、人レベルの知能を計算機により実現することは全く不可能という見方は少なくなった。しかしながら、現状の機械学習技術を中心とした量的な拡大のみによって、人間レベルの汎用人工知能(AGI)に到達しうるのだろうか。専門家の間でも、知能の実現に向けて、越えるべき課題が折に触れて指摘されている。しかし、激しい技術進展のもとでは、残された課題の本質は必ずしも整理しきれず、それゆえAGI完成までの道筋も見通しにくいのが現状である。しかしAI発展の歴史から俯瞰してみれば、むしろ、知能研究の本丸に迫るための状況がいよいよ整ったと時期に差し掛かったともいえる。
こうした現状を踏まえつつ、第1部 では、最近の当法人の活動状況報告をおこない、約5年間の間に進化してきたWBAアプローチについて解説する。そして第2部では、全脳アーキテクチャの発展にかかわる昨年度までの貢献を表する表彰式を行う。 そして第3部では、、まず、あらためて人のような汎用知能が備えるべき能力について概観する。次に、現状のAIとその延長線上でなしうることの限界を示すことを通じて残された課題についてのヒントをえる。そして、拡大しつつある脳とAIの接点について述べる。これらを踏まて、最後のパネル討論においては、知能研究における本丸の姿を明らかにし、それを攻めるために、いかなるアプローチを取るべきか、その中でどのように脳の知見を活用できるかについて議論する。
シンポジウム開催詳細
- 日 時:2020年10月19日(月) 13:10~17:10
- 会 場:オンライン Zoom
- 参加費:一般1000円(学生無料)
- 主 催:NPO法人 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
- 協 賛:新学術領域人工知能と脳科学の対照と融合
- 後 援:脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理
- 後 援:「富岳」成果創出加速プログラム:脳結合データ解析と機能構造推定に基づくヒトスケール全脳シミュレーション
- 後 援: 社団法人 人工知能学会
- 参 加:約140名(うち学生50名弱)
講演スケジュール
時間 | 内容 | 講演者 |
---|---|---|
13:10 | ご案内 | (司会) 大森隆司(玉川大学) |
13:15 | 開会の辞 | 岡ノ谷一夫(東京大学) |
13:20 | 活動状況報告 | 荒川直哉 (WBAI) |
13:40 | 進化したWBAアプローチの現在 | 山川宏(WBAI) |
14:40 | 表彰式(奨励賞/活動功労賞) | |
14:50 | 休憩 | |
15:05 | 汎用知能が持つべき性質とその評価方法 | 市瀬龍太郎(国立情報学研究所) |
15:30 | 現在のAIの到達点と残された課題 | 松尾豊(東京大学) |
15:55 | 脳とAIの接点から何を学びうるのか | 銅谷賢治(OIST) |
16:20 | パネル討論「(仮)今のAIに足りないもの」 | モデレータ:高橋恒一(理研) パネリスト:銅谷賢治、松尾豊、市瀬龍太郎 |
16:50 | 閉会の辞 | 高橋恒一 |
17:10 | 終了 | |
17:30 | オンライン懇親会 |
講演等アブストラクト一覧
活動状況報告 [スライド]
講演者:荒川直哉(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)
概要: イベントを中心に5年間の活動を振り返ります。
進化したWBAアプローチの現在 [スライド]
講演者:山川宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)
概要: 当法人では、ハッカソンなどの経験を通じて全脳アーキテクチャの開発方法論を開拓してきた。現在は、脳のメゾスコピックレベルのアーキテクチャについての解剖学的構造・生理学的現象・計算機能の仮説に関する神経科学的知見の要約した全脳参照アーキテクチャというデータ(BIF形式)の蓄積を進めている。今後は、それを起点として、ソフトウエアの生物学的妥当性を評価しつつ、機械学習のモジュールを開発し、それを統合することで、全脳アーキテクチャ・アプローチからのシステム開発を進めようとしている。
汎用知能が持つべき性質とその評価方法
講演者:市瀬龍太郎(国立情報学研究所)
概要: 人間レベルの汎用知能を構築するためには,汎用知能の性質の理解が欠かせない.本発表では,特化型人工知能と汎用人工知能の議論を通して,汎用人工知能が持つべき性質を明らかにするとともに,工学的に実現するために,その評価をどのようにすればいいのかについての議論を行う.
現在のAIの到達点と残された課題 [スライド]
講演者:松尾豊(東京大学)
概要: 本講演では、深層学習を中心とする近年のAI技術の進化が、知能の仕組みを解き明かすという目的においてどのような意義をもつのかを述べる。そして人間の知能の全体像に関する仮説について説明する。いくつかの新しい概念の上に全体像を整合的に説明できると考えており、そうした概念について説明したあと、今後進めるべき研究についても述べる。
脳とAIの接点から何を学びうるのか [スライド]
講演者:銅谷賢治(沖縄科学技術大学院大学)
概要: MRIや2光子顕微鏡、単一細胞RNA-seqなどの実験技術の進歩により、超高次元の脳データから科学的知見や臨床マーカーを得る上で、統計的機械学習などのAI技術の活用は今や不可欠のものとなりつつある。一方で、脳科学の知見を次世代のAI開発にどう活かすことができるだろうか?本講演では、エネルギー効率、データ効率、自律性と社会性に着目し、その脳での原理の解明と次世代AIへの活用の可能性を議論する。
表彰式
WBAI活動功労賞受賞者
- 生島 高裕
当法人の創設年(2015年)から勉強会やシンポジウムの実行委員長を歴任いただいたほか、WBA勉強会実行委員会(旧称:サポーターズ)の創設および、
その活動の活性化や運営体制の改革などにおいて多大な貢献をいただいた。
WBAI奨励賞受賞者
- Matthew Crosby and Benjamin Beyret
動物のもつ多様な常識的推論(対象物の永続性、数値能力、一段階の因果推論など)の研究開発を促進するためのプラットフォームとして、仮想実験環境、評価システムなどの実装を行い、それを用いて、世界中から60以上のチームが参加するコンペティションを実施した。動物の知能はヒトのような知能の基盤であるため、こうした活動は汎用人工知能の技術開発を促進することとなる。 - 鈴木雅大
モダリティの差異を超えて情報を双方向に変換できる Joint Multimodal Variational Autoencoderの提案と開発および、認知システムであるNeuro-Serketの共同開発等、脳型人工知能の基盤となる深層生成モデルの研究開発において多大な学術的な貢献があった。さらに独自開発ツールであるPixyzを用いて前記のようなモデルの実装を促進することでその波及効果を高めた。
シンポジウム運営スタッフ
- プログラム委員長: 山川 宏
- 実行委員長:長田 恭治
- 司会:大森隆司
- 司会スライド・タイムテーブル: 大森隆司、山川 宏
- 広報担当:荒川直哉
- Connpass:孫 暁白、中村真裕、長田 恭治
- ウェビナーホスト:荒川直哉
- タイムキーパー:長田 恭治