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第3回 WBAレクチャー[オンライン]脳型機械学習モデルの構築体験記:海馬のような確率的生成モデルはどのような足場の上に作られたのか?

動画公開中

開催趣旨

本レクチャーでは、高度なソフトウェア開発スキルを持ちつつも、神経科学の深い知識を持たない機械学習研究者が、約1年で脳に整合的な計算モデルの論文[1]を投稿するに至った経緯を中心に、脳参照アーキテクチャ(BRA)駆動開発について紹介します。ここで、BRAとは、ソフトウェアの構造的な仕様を提供する情報であり、脳のメゾスコピックなレベルの解剖学的構造に機能的な仮説や現象を付加した設計情報です。今回の取り組みでは、海馬体のナビゲーション機能に着目し、その解剖学的構造や計算機能との整合性が高いモデルを構築しました。まず、布川絢子氏が、BRAを用いた開発の全体像とデータの記述方法について説明し、そのあとに、海馬体の解剖学的知見などを整理し、情報の流れを示すデータフロー(BIF)を作成過程を紹介します。次に、谷口彰氏が、BIFを足場として上記のBIFと整合性のある確率的生成モデル(PGM)を設計し、従来の工学的なSLAM (Simultaneous Localization and Mapping)にはない機能を提供することができた経緯と、今後の実装計画についてお話しします。

[1] Taniguchi, A., Fukawa, A., & Yamakawa, H. (2021). Hippocampal formation-inspired probabilistic generative model. In arXiv [cs.AI]. arXiv. http://arxiv.org/abs/2103.07356

WBAレクチャー開催詳細

日 時:2021年11月17日(水)(18:30~20:40)
会 場:オンライン Zoom Meeting
参加者数:約110名
主 催:NPO法人 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
後 援:脳情報動態を規定する多領野関連と並列処理
運 営:WBA勉強会実行委員会

講演スケジュール

時間 内容 講演者
18:25 開場
18:30 開会の挨拶 山川 宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)
18:35 海馬体周辺におけるBRA駆動開発の進展(資料 布川絢子(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)
19:20 休憩(10分)
19:30 BRAに基づく海馬体の確率的生成モデルの構築(資料 谷口彰(立命館大)
20:15 BRA評価(資料 山川宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)
20:25 フリーディスカッション 田和辻可昌、布川絢子、谷口彰、山川宏
20:35 Closing Remark 孫 暁白(実行委員長)
20:40 終了

 

海馬体周辺におけるBRA駆動開発の進展


講演者:布川絢子(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)

概要:動物の脳に学びモデルを実装するために,脳参照アーキテクチャ(BRA)は重要である.本講演では,BRAを用いた開発の全体像とデータの記述方法について説明する.その後,BRAの作成過程や情報の流れを示すデータフロー(BIF)の具体的な記述について,脳領域である海馬体を対象に行った研究成果をふまえながら紹介する.

BRAに基づく海馬体の確率的生成モデルの構築


講演者:谷口彰(立命館大)

概要:機械学習×ロボティクスにおいて、SLAM (Simultaneous Localization and Mapping)は空間認知の基本機能として実現されている。一方、神経科学においては、海馬体が空間認知の機能を担っているとされている。本講演では、海馬体を例にBIFと整合性のある確率的生成モデル(PGM)を構築した経緯とその方法について説明する。また、我々が構築した海馬体のPGM(HPF-PGM)の概要について紹介する。

BRA評価


山川 宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)

概要:脳参照アーキテクチャ(BRA)を構成する、脳情報フロー(BIF)と仮説的コンポーネント図(HCD)は、いくつかの観点からその妥当性が評価される必要がある。なぜなら、BRAは、脳型ソフトウェアを開発する際の機能要求仕様として、またそのソフトウェアを評価する際の基準として使用されるからである。BIFについての信憑性(authenticity)の評価は、記述された構造的・現象的記述子が、現在の神経科学の知識によって直接または間接的にサポートされていることによって検証される。HCDについては,コンポーネントとその接続のすべてがBIFに対応しているという整合性(consistency)と,コンポーネントの依存構造に基づく動作の連鎖によって対応する脳領域の果たす目的を達成する動作メカニズムが構築できるという機能性(functionality)の点から評価される。

フリーディスカッション

モデレーター:田和辻可昌(早稲田大学)
パネリスト:谷口彰・布川絢子・山川宏

運営スタッフ

プログラム委員長 :山川宏
実行委員長:孫 暁白
Connpass作成/運営:藤井 烈尚
広報:荒川 直哉(WBAI事務局)
当日Zoom担当:西村 由弥子、生島 高裕
当日参加者担当:福沢 栄治

 

全脳アーキテクチャ勉強会創設者


◎ 産業技術総合研究所 人工知能研究センター 一杉裕志

1990年東京工業大学大学院情報科学専攻修士課程修了。1993年東京大学大学院情報科学専攻博士課程修了。博士(理学)。同年電子技術総合研究所(2001年より産業技術総合研究所)入所。プログラミング言語、ソフトウエア工学の研究に従事。2005年より計算論的神経科学の研究に従事。 「全脳アーキテクチャ解明に向けて」

◎ 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ 山川宏

1987年3月東京理科大学理学部卒業。1992年東京大学で神経回路による強化学習モデル研究で工学博士取得。同年(株)富士通研究所入社後、概念学習、認知アーキテクチャ、教育ゲーム、将棋プロジェクト等の研究に従事。フレーム問題(人工知能分野では最大の基本問題)を脳の計算機能を参考とした機械学習により解決することを目指している。

◎ 東京大学 教授 松尾豊

1997年東京大学工学部卒業。2002年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。産総研、スタンフォード大学等を経て、2007年から東京大学勤務。深層学習を中心とする人工知能の研究に従事。産学連携やスタートアップの育成などにも取り組む。 http://ymatsuo.com/japanese/