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第5回全脳アーキテクチャ・ハッカソン「『今、ここ』を超えて」参加者募集案内

NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブでは、汎用的な人工知能の開発に向けた最短距離は脳に学ぶこと、つまり全脳アーキテクチャ・アプローチであると考えています。全脳アーキテクチャの開発を促進するためのWBAハッカソンを企画しています。これまで徐々に脳に学ぶ度合いを強めながら計4回のハッカソンを開催してきました。

今年は作業記憶をテーマとしたWBAハッカソンをオンラインで開催します。作業記憶は、行動の計画や知能テストで測られる「流動性知能」など高次認知機能に不可欠かつ基本的な認知機能である一方、神経科学的あるいは人工神経回路における実装については決定的な理論がありません。このため、作業記憶を脳を真似た人工神経回路で構成することは、脳型汎用人工知能の実現のための重要な挑戦となります。

開催期間

2021年 5月〜10月

課題概要

  • 見本合わせ課題を用います。
    見本合わせ課題は複数の図形が同じかどうかを判定する課題です。遅延見本合わせ課題では、基準となる図形が画面から消えた後に判定を行う必要があり、作業記憶を必要とします。
  • 比較対象となる図形には回転や縮小などの操作が加えられることがあります (Invariant Object Identification)。
  • エージェントは、新しい課題セットを与えられる際に数件の解答例の提示を受け、形または色のどちらに注目すべきかを学んで課題を遂行することが求められます (few-shot imitative rule learning)。
  • エージェントは事前に課題に接して学習することができます。
  • エージェントの視覚は(ヒトの視覚のように)中心視と周辺視を持つものとします。すなわち、中心視野は解像度が高く、それ以外の視野は解像度が低くなります。図形の正確なパターン認識を行うためには、視線を動かして当該図形を中心視野で捉える必要があります。こうして複数の図形を比較するには作業記憶が必要になります。

課題の詳細については下記を御覧ください。

サンプルアーキテクチャ

本ハッカソンでは認知アーキテクチャのサンプルコードを提供します。

サンプルアーキテクチャは、視覚系と大脳基底核を想定した強化学習器からなり、課題環境での訓練により、周辺視野と遅延がない場合に課題を解くことができます。

サンプルアーキテクチャには脳器官に対応する、内部実装がないモジュール(スタブ)が用意されています。参加者にはサンプルアーキテクチャのモジュールを改変する形での作業記憶の実装をお願いします。アーキテクチャを変更する場合は、提出する説明文で十分な文書化を行ってください。

サンプルアーキテクチャの詳細はこちらを参照ください。

申し込み

申し込みはチーム単位(一名でも可)でお願いします。

事前に CodaLab にチームアカウントを作成し、Githubに今回ハッカソン用のチームリポジトリを用意の上、以下のフォームから申し込みください。

フォームには以下の内容をご記載ください。

  • CodaLab チームアカウント名
  • Github チームリポジトリ URL
  • 代表者氏名
  • 代表者メールアドレス
  • 代表者所属
  • 参加者人数
  • 参加学生数

申し込み期間:ハッカソン開催期間

申し込みは、CodaLab 上でご自身のコードを試してみたり、CodaLab 上でチームメンバーを募集したり、主催者や他の参加者とやり取りした後でもかまいません。

評価対象

ハッカソン〆切後に主催者は以下のデータ(タイムスタンプ GMT 24:00h以前の最新版)を各チームの提出物として回収し、評価を行います。

CodaLab 上の評価

ハッカソン期間中、参加者は CodaLab プラットフォームにアップロードし、作成物を試すことができます。課題の成績は〆切時の最終スコアにより審査されます。

説明文

コードの説明(英文1,000語以内・説明図も推奨)を申し込み時に指定した GitHub チームリポジトリの README.md に置いてください。

サンプルコードに対して与えられた改変を記してください。

実装の生物学的妥当性を評価します。必ず改変したモジュールごとに参考にした神経科学の文献を挙げ、実装の生物学的妥当性を正当化してください。

ソースコード

申し込み時に指定した GitHub チームリポジトリ上で公開してください。

チームリポジトリには Apache License (Version 2.0)  に著作者名を記した PDF を置いてください。

審査

審査は〆切時の提出物によって行われます。審査には課題による性能評価と生物学的妥当性の評価(下記)が用いられます。

優秀な作品を提出した入賞者には副賞として賞金(最大10万円)が授与されます。

性能評価

提出されたコードを課題環境を用いてスコアリングします。スコアリングには以下の基準が用いられます。より具体的なスコア配分についてはこちらを参照ください。

  • 図形の形を区別できるか
  • 図形の色を区別できるか
  • 図形の変化(縮小・回転)に対応できているか
  • 複数図形の位置関係を識別できるか
  • 遅延に対応できているか
  • 色、形、位置関係のどれを判断に用いるかを区別できているか
  • 中心視と周辺視の区別を使えているか

評価のスコアは、作業記憶課題が解けているかの判定とともに、コードがどの程度汎用性を持っているかの評価に用いられます。

生物学的妥当性の評価

生物学的妥当性は主に提出された説明文から判定されます。

サンプルアーキテクチャに加えられた変更の説明について生物学的妥当性が評価されます。評価時に説明文とソースコードの一致を確認しますので、ソースコードはできるだけ可読性を高めるように開発ください。

なお、WBAIでは一般的な評価基準としてGPS基準を設定していますので、ご一読いただければと思います。また、こちらの論文の §3.3、§4.2 もご一読いただければと思います。

スケジュール

スポンサー募集

参加者に御社名を冠した賞金を提供いただける方を募集いたします(1口5万円)。
ご連絡はこちらからお願いします。

連絡先: 

質問とチーム生成

本ハッカソンのコミュニティとして、専用 Slack(英語・参加申込 ⇒ hackathon2021 [at] wba-initiative.org)および CodaLab 上のフォーラムを使用します。質問などはこちらでお願いします。

また、チーム生成にはやはり上記 Slack または CodaLab のチーム管理機能をご利用ください。

開催組織

共催:NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
共催:Cerenaut

後援:理化学研究所 生命機能科学研究センター
後援:クーガー株式会社
後援:新学術領域研究「脳情報動態」
後援:人工知能学会汎用人工知能研究会
後援:新学術領域研究 人工知能と脳科学の対照と融合
後援:日本神経回路学会

参考

本ハッカソンに関するより詳しい情報はこちら(英文)に掲載されています。

作業記憶のアーキテクチャ

作業記憶の脳内機序ははっきりしたことがわかっていないようですが、以下のようなことがいえるでしょう。

  • 作業記憶は知覚表象に関わるので、知覚領野(前頭以外の大脳皮質)が関与する。
  • 作業記憶の内容(過去の知覚内容)と現在の知覚内容は皮質内で区別されなければならない。
  • 作業記憶は定義上執行機能が関わるので、執行機能に関与するとされる前頭葉が関与する。
  • 作業記憶には(上記から)前頭葉と知覚領野の間のネットワークが関与する。
  • 執行機能(前頭葉)は(知覚領野の)作業記憶の保持と終了の制御を行う。

なお、サンプルエージェントは下図のアーキテクチャに準拠しています。

図1第5回WBAハッカソン用全脳アーキテクチャ
SC: 上丘、LIP: 外側頭頂間野、FEF: 前頭眼野、BG: 大脳基底核、preMotor:前運動野、PTg: 脚橋被蓋核

関連イベント:作業記憶モデラソン

ハッカソン課題詳細

テスト画面

エージェントが提示される画面は3つのセクションからなります(図2)。図2:テスト画面

テスト本体

Delayed Sample Matching Task の場合、最初に一定時間 Sample 画像が Target 画像なしに提示されます(図3)。


図3

次にSample 画像が隠され、一定の時間(最大数秒)後に Target の図形が表示されます。

Target 図形が表示されている間に、エージェントは Response Section のボタンを選びます(図4)。


図4

一定時間(最大数秒)が経過した後、正解のボタンが点滅します(図5)。この時点ではTarget 図形は表示されたままです)。


図5

正解の場合、報酬が与えられます。Sample Section に提示された図形と「同じ」ものの下にあるボタンを押すと正解になります(上の例題では、正解はサンプルと色と向きが違いますが形が同じです)。

図形の色、形または位置関係により同一性が判断されます。図6に示すように、位置関係はバーの図形との関係により示されます。


図6

Non-Delayed Sample Matching Task の場合、Sample 画像は Target 選択の間も提示されています。ここでも視線移動の間情報を保持しなければならないので作業記憶は必要です。

例示(few-shot imitative rule learning)

エージェントは、テスト本体実施の前に正解試行を1回以上見せられます。

正解試行により、エージェントは Sample と Target の間でどの属性(色、形または位置関係)に基づいて一致を判断するかを学びます。

Target Section の図形の提示後、Response Section の対応するボタン(正解ボタン)が点滅します。

例示セッションの後、全画面が2回フラッシュし、テスト本体に移行します。

事前訓練

参加者は例えば次のような事前訓練を設計し、エージェントを訓練することができます。

  1. Target Section に1つだけ図形が表示され、表示された図形の側を選択すると、Response Section の対応する四角が点滅し、報酬がもらえる。
  2. Non-Delayed Sample Matching Task で例示セッションがない課題
    Target 図形の間で Sample と最も類似しているもの(ユニークに決まる)を選ぶと報酬がもらえる。

スコア配分

評価はそれぞれのタスクごとに10回行われ、平均点が用いられます。

タスク スコア
Non-delayed 形の比較 60
Non-delayed 色の比較 20
Non-delayed 棒の位置の比較 20
Delayed 形の比較 120
Delayed 色の比較 40
Delayed 棒の位置の比較 40
合計 300