Blog

「私とWBAI」WBA勉強会実行委員 生島高裕

数理先端技術研究所の生島と申します。私が活動に参加し始めたのは、第12回 全脳アーキテクチャ勉強会 ~ 脳の学習アーキテクチャ ~(2016年01月14日)からだと思います。最初は勉強会のレポート作成などでお手伝いしていました。その後、実行委員のメンバーになり、第1回シンポジウム「加速する人工知能、加速する世界」(2016年5月18日)では実行委員長を努めさせていただきました。随分長くお付き合いさせていただきました。改めてお礼を言わさせていただきます。

勉強会全体は、脳科学、神経科学とDeep Learning、強化学習のような機械学習、AI系の話がベースになっております。しかし、その中でも、海馬、前頭前野など言語、推論、意味、価値、創造性の話など最先端の話が多くあり、他の勉強会とは差別化されていると思っています。また精神疾患、社会性などがテーマとしてあり、今後のAI発展に伴う、人間との双対的な現象出現の示唆も感じられます。

シンギュラリティに向かって、経済、統治、社会の未来についてもAIがベースとして認知されるようになってきています。この数年では、貨幣の消失、デジタルレーニン主義、信用スコア、AI倫理など活発に議論されています。すべての現象の発端は第3次AIブームによるものでしょう。それらの課題に対するマイルストーンの年として2030年は重要な時期であると思います。

さて、1956年のダートマス会議(The Dartmouth Summer Research Project on Artificial Intelligence)の7つの課題、自律、自然言語、ニューラルネット、計算複雑性、自己改善、抽象、創造性、このテーマに関してどこまで進んでいるでしょうか?楽しみです。

個人的興味としましては、やはり人類が出現し繁栄している直接の原因、自我、創造性の解明にあると思っています。

自我に関してはエネルギーの概念に影響を受けているフロイトの力動論が今後どのように説明されていくかに興味があります。局所論(意識、前意識、無意識の3階層モデル)、構造論(エス、自我、超自我)はわかりやすい人間の心のモデルとなっています。武谷三男の三段階論的過程での現象論的段階を経てモデル的段階へは達していますが、本質論的な説明には至っていない現状です。

発達心理学はAIの研究方針として、個体発生的に系統発生的な知性の創発の指針を与えてくれました。ただ精神疾患も含めた異常系を理解するには力動論的な現象論的知見がAIの研究方針に役立つのではないかと思っています。

また、観測技術の進歩はいつも科学のパラダイムシフトを後押ししました。大きくはビッグバン直後の「第一世代星」観測技術、小さくはナノレベルでの分子構造観測技術があります。もちろんその観測結果からの本質論追求への理論的考察が最も重要で、今後納得のいく精緻な心の理論が構築されると思っています。

その追及にはフリストンの自由エネルギー原理のように物理の最小作用の原理からの説明、複雑ネットワーク的なスケールフリー 性、クラスター性、スモールワールド性はもとより、意識に関する統合情報理論のように情報の多様性・情報の統合からの説明は必要不可欠だと思います。その知見から心のシステム論が構築されることを期待しています。

現在のオペレーティングシステムは意識をカーネルモード、無意識をソフトウエアモードと考えますとアバウトな心の表現はできています。しかし、エス、自我、超自我に対応するものが実装されていないわけです。特に超自我である倫理、本能であるエスはどのように実装すべきかわかっていません(人間もわかっていませんが…)。しかも作り込みではなく創発させることを考えますと課題は山積みと思います。

創造性については科学だけでなく、アートの世界など全ての分野でいつも言われることです。個人的は数学におけるポアンカレの科学と方法で述べられた数学的審美眼は特に興味深く思われます。これは様々な分野で使われる価値関数、効用関数、評価関数と言われるもので一種の目標を表す美意識です。それと現実の差を表す関数が損失関数、誤差関数、予測誤差でこれらを最小にしようとして脳活動は常に行われているのでしょう。

敵対的生成ネットワークにおける生成ネットワークに対する識別ネットワークが評価関数に対応するものと思っています。これはアートの世界におけるクリエータ・オーディエンス問題です。また、蒸留は生成ネットワークが新たな組み合わせを作るときのコストを下げるための手段と考えられます。蒸留は数学、物理の理論における説明性の向上に関係していると思われ、常に難解な理論はよりわかりやすい表現へと進化します。18歳までに超重力理論の理解ができるコースもあると聞きます。それはある意味、オントロジー構造の最適化です。この人類における創造性のテクニックがAIに応用されているということ自体が素晴らしいことと思います。

シンボリズムの観点からは推論の解明と実装が大きな問題ですね。類推、演繹、帰納、アブダクション、一般化、抽象化、双対性のうち類推、演繹が若干進んでいるのが現実でしょうか?

典型的なマイルストーンは、数学においての証明の検証が自動化されていないことです。宇宙際タイヒミュラー理論など予想問題の証明は大変なため人類も苦労しています。数学論文の証明部分の検証の自動化はいつできるでしょうか?個人的にはこの後、美意識に基づく予想問題生成ができることにより機械が創造性を勝ち得ることと思っています。フィールズ賞を機械が取ってこそシンギュラリティの日と思っています。

このような夢のある課題について、是非勉強会でもテーマにしていただければと思います。

全脳アーキテクチャの今後の発展を期待しております。