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第33回 全脳アーキテクチャ勉強会 ~ Biologically Plausible Agents Interaction は有望か 〜 HAIとWBAから考える知能研究の展望 〜

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概要

我々はこれまで、汎用人工知能(AGI)を最短で実現する有望な研究アプローチとして、全脳アーキテクチャに関する取り組みを進めてきた。しかし当然ながら、AGIの実現は直近には想定されていない。そこで1つの疑問が生まれる。ー WBAの取り組みによる中間成果物は、なんらかの工学的有用性をもつだろうか?  WBAからの中間成果物は、 (1) 脳との整合性が取れた工学モデル。 (2) 特定のタスクに依存しない汎用性。 (3) 特定のタスクでの性能は高いとは言い難い。といった性質をもつことが予想される。これらの性質が活かされる研究領域の候補として、Human-Agent Interaction (HAI)がありうる。(1)の性質がもし、WBAのこれまでの仮説通り「人と似た意思決定メカニズムであること」を意味すれば、人とエージェントの相互理解において有望である。(2)の性質は、HAIにおいて最も危惧される問題の1つである「インタラクションの破綻」の解決策になりうる。 (3)の性質は、HAIの代表的な研究である「弱いロボット」のように、性能が高くないことがむしろ利点になる可能性を秘めている。 そこで第33回WBA勉強会では、HAIに着目し、WBAの中間成果物がHAI研究へ貢献するかを議論する。まず、日本大学の大澤氏からは従来の「機能要件」に基づいて定義されたAGIではなく、「社会的承認」に基づいて定義されたAGIにおいては、HAIが極めて重要な研究であることを説明し、HAIとAGIの関係性について明らかにする。次に、静岡大学の坂本氏からは、HAIのモデル研究について説明し、脳に基づいて設計されたモデルのHAIにおける有用性の是非について議論する。最後に早稲田大学の田和辻氏から、WBA研究の成果である眼球運動を例に説明し、HAIとWBAの関係性について議論する。  本勉強会での中心的な論点は、HAIとWBAのそれぞれの視点からみた2つである。1つはWBA視点で「WBAの中間成果物のキラーアプリケーションとして、HAIにおけるエージェントは有用か」である。そしてもう1つHAI視点は「HAIにおけるエージェントモデルが、WBAの中間成果物である有効性があるか」である。講演者は必ずしもこの2つの論点に賛成してはおらず、勉強会でのパネルディスカッションでは会場からの見解も大いに取り入れて、議論していく予定である。

 

開催詳細

  • 日 時:2021年6月25日( 金) (18:00~21:00)
  • 会 場:オンライン Zoomウェビナー
  • 参加者:約80人(スタッフ・関係者含む、学生枠約30名)
  • 主 催:NPO法人 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
  • 運 営:WBA勉強会実行委員会

 

講演スケジュール

 

時間 内容 講演者
17:55 開場
18:00 開会の挨拶(資料) 山川 宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)
18:05 趣旨説明 大澤 正彦(日本大学)
18:15 社会的承認による定義をされたAGIに向けたHAIとWBAの役割(資料 大澤 正彦(日本大学)
18:45 HAIとWBAのアプローチの差異と接合点から見るインタラクションのデザイン(資料 坂本 孝丈(静岡大学 創造科学技術大学院)
19:25 休憩(10分)
19:35 HAI研究に基づいた機能体系の整理とWBA開発による機能設計アプローチ(資料 田和辻 可昌(早稲田大学)
20:15 パネルディスカッション 大澤 正彦(モデレーター)、坂本 孝丈、田和辻 可昌、山川 宏
20:55 Closing Remark 孫 暁白(実行委員長)
21:00 終了
21:10 懇親会 オンライン

 

社会的承認による定義をされたAGIに向けたHAIとWBAの役割


講演者:大澤 正彦(日本大学文理学部 次世代社会研究センタ(RINGS)長)

概要: 汎用人工知能の実現を困難にしている理由の1つに、定義の曖昧性が挙げられる。世界的に汎用人工知能のテストとして妥当なセットの検討が行われているが、決定版と言えるものはいまだ現れていない。一方、汎用人工知能のテストといえる有名なチューリングテストは、エージェントとのインタラクションをする人を通してテストするものである。このように、エージェントの機能を定めるのではなく、インタラクションした人を通した評価を前提とした定義を「社会的承認による定義」と呼ぶこととする。講演では、社会的承認による定義をされた汎用人工知能実現アプローチとして、Human-Agent Interaction (HAI)を前提とした相互適応が重要であることを述べる。また、汎用人工知能研究としてのHAIとWBAの関係性について、講演者の見解を述べる。

 

HAIとWBAのアプローチの差異と接合点から見るインタラクションのデザイン


講演者:坂本 孝丈(静岡大学 創造科学技術大学院 特任助教)

概要: HAI研究では多くの場合,「人とエージェントの間にどのようなインタラクションが生じ得るか」に主眼が置かれており,人にとって適応的なインタラクションが生じるようなエージェントの設計が目指される.一方で,WBA研究のアプローチでは主に人の「脳」のモデルに注目されており,人が行う認知的な情報処理プロセスを統合することでAGIを構築することが目指される.HAIを設計するうえでは必ずしもエージェントにリッチな認知的機能を実装する必要はないため,現段階では両研究領域において設定される課題や構築されるエージェントのモデルには,少なからずギャップがあると考えられる.講演では,現状におけるHAIとWBAのアプローチの間にある差異と,この差異から見える2つの領域の今後の接合点について講演者の見解を述べる.そこから,HAIを設計(あるいはモデル化)するうえでWBAのアプローチが有用である点や,2つの領域が相補的に発展する可能性について検討を行う.

 

HAI研究に基づいた機能体系の整理とWBA開発による機能設計アプローチ


講演者:田和辻 可昌(早稲田大学 グローバルエデュケーションセンター 講師)

概要: 汎用人工知能の実現を志向したWBA(Whole Brain Architecture)開発では,設計要件となる最上位機能をまず設定し,この機能の部分機能を達成するコンポーネントを自然物である脳神経系という物理的観点を制約条件として同定する.したがって,自ずからこのようなWBA開発では設定された機能外については陽に設計・開発することができないという特徴をもつ.一方で,HAI(Human-Agent Interaction)研究において,人間とエージェントとのインタラクションでは期待された機能が達成されているかという観点の重要性について指摘されてきた.本講演では,先のWBA開発における設計プロセスとその限界について述べたのち,WBA開発における機能設定の羅針盤的役割としてのHAI研究の位置づけの可能性について,講演者の見解を述べる.

 

運営スタッフ

  • プログラム委員長:大澤 正彦
  • 実行委員長:孫 暁白
  • 司会:武藤 杏里、芦原 佑太
  • Zoomホスト:孫 暁白
  • Zoom共同ホスト:生島 高裕、福沢 栄治
  • connpass:土肥 栄祐、藤井 烈尚
  • 広報/WBAI事務局:荒川 直哉
  • QAチャネル招待担当:藤井 烈尚