2022年度活動方針

2021年度アニュアルレポートから抜粋

2022年度の活動にむけて

脳のアーキテクチャを基盤とした知能設計への注目が高まる中、私たちは 2022年度も教育事業と研究開発事業として以下をおこなう予定です。

教育事業(人材育成事業)

本事業の目標は、全脳アーキテクチャ・アプローチからの研究開発に必要な、人工知能、神経科学、認知科学、機械学習などの異なる専門性を同時に備えた学際的な人材を長期的に育成・増加することにあります。本年度も例年の活動を継続し、複数回の勉強会を開催すること、年次のシンポジウムを開催することで一般の関心を喚起します。

人工知能学会全国大会、Neuro 2022 などといった学術イベントへの参加・協力、外部学術団体との協力・情報交換などを行うことを通じ、当法人の進展状況をアピールしてゆきます。外部の研究者・技術者およびグループとの協力により人材育成、巻き込みをはかります。

WBAI奨励賞の公募を行い、脳型AGIの(国内外の)技術開発の促進において、波及効果の高い開発成果を残した方々を評価することで、コミュニティの活性化をはかります。また、認知科学分野の書籍において、全脳アーキテクチャアプローチからの脳型AGI開発を紹介する予定です。また、当法人が開発促進する脳型AGIを Beneficial なものとすることにむけた研究の成果を、人工知能学会全国大会の基調講演、慶應義塾大学 HASS Center 共知塾 などで発表してゆく予定です。

研究開発事業

本事業の目標は、全脳アーキテクチャ・アプローチによる外部での研究の先導と促進によりオープン・プラットフォーム上で民主的な AGI研究を加速することです。つまり、私たちは既存の WBA研究に関わる研究機関等と競合しないように活動を進め、情報交換などを行ったり、オープン・プラットフォームを利用した具体的な機械学習モデルの実装などといった研究の活性化をすすめます。

BRA評価手法

BIFの信憑性評価を脳全体のコネクションについて大規模に行う必要があるため、その作業を効率化する方法について検討する予定です。またBRA駆動開発に関わる概念整理については、主に開発に関わる概念を整理しHCDにおける記述の改善に役立てる予定です。

コネクトームからのBIF作成

新皮質におけるヒトのコネクトームとヒト以外の霊長類のコネクトームにおける階層性の情報を統合した新皮質SHCOMのデータを作成し、広く利用できるようにすることを目指します。このため、まずはヒトとヒト以外の霊長類の脳領域の対応付けを進めます。

BRA記述環境の開発

これまで脳器官毎に作成してきたBRAにおいて、BIFを一元化し、その上で個別のHCDを記述する方式に移行します。この改定にあたり実装に有用な情報をHCDに記述しやすいように配慮します。

BRA作成

本年は、HCD統合における具体的な課題として、その効率化や適用限界などについて検討し、具体的に進めるための方針案を決定する予定です。またその検討状況を国内の学会 (Neuro 2022) で発表します。

脳型ソフトウエアの先行的な実装

HCDに基づいて実装する標準的な計算モデルを決定し、HCD からそのモデルに変換する方法について検討を進める予定です。BriCAについてはユーザビリティの改善を進めます。また、昨年のハッカソンテーマであった作業記憶などAGIにおいて重要な認知機能を生物学的に妥当なかたちで実装することが可能であることを検証する予定です。

国内研究グループとの連携(促進型研究開発)

引き続き、全脳アーキテクチャ・アプローチによる研究を支援するためのソフトウエアなどの研究インフラストラクチャを整備する活動と、それらを利用して研究を進める活動を他の組織とも連携・協力しながら行っています。2022年度は、立命館大学、OIST、玉川大、東大などの研究組織と連携して構想を提案した全脳確率的生成モデル (WB-PGM) について、国内学会において発表を行う予定です。

脳型ソフトウエア の開発に役立つ BRA を構築するために、BIF形式に従って解剖学的知見の蓄積を進めた脳情報フローの構築を進め、その上に特定のタスクや機能を前提とした機能仮説を SCID法によって付与することを促進します。またそうして構築された脳型ソフトウエアの実装を評価するために、BRA を活用しながら脳型AGI の神経科学的妥当性を評価する技術の開発も進めます。

2022年度の予算

予定収入は約296万円で、会費収入256万円のほか勉強会からの収入を含みます(2021年度の会費収入は170万円でした)。当期予定収入と前期繰越金約843万円を合計すると約1139万円となります。

支出では、管理費に約81万円、イベント開催費用、研究開発費を含む事業費に約197万円、計約278万円を予定しています(当期予定収入との関係では18万円の黒字になります)。なお、2021年度の予算では管理費に約83万円、事業費に約222万円の計約305万円の支出を予定していました。

結語

本NPOの出発点となる全脳アーキテクチャという活動は、2013年の深層学習の発展に刺激を受けて開始したものでした。その頃から間もなく10年が経過し、確かに機械学習に基づくAIは大きな躍進を遂げました。そして最近においては、AIがヒトの一般的な性質を再現したとする DeepMind の Gato や Google の LaMDA といったニュースを見る時代になってきました。とはいえAIが政治的な判断を行ったり、科学研究のディレクションをおこなうといったレベルにはまだ距離があります。

ですから私たちは、全脳アーキテクチャ・アプローチを体現するために生み出されたBRA駆動開発の方法論を追求することで脳型AGIの開発を促進したいと考えております。現在はWBAIの周辺でメゾスコピックレベルの解剖学的構造と整合するようにリバースエンジニアリングを行うことで計算機能を設計するSCID法が行われています。今後は、その設計活動をスケールアップするために学術研究活動として計算論的神経科学分野や他の分野にも普及させる予定です。そうした活動により、次第に多様で断片的な機能仮説 (HCD) が蓄積されてゆくでしょう。したがって、散在するHCDを脳型ソフトウェアの仕様として統合することは、今後の大きな課題となります。この統合作業は、大規模であるがゆえの困難さを持ちます。ですが、それはクロスワードパズルのような制約充足問題であるために、完成に近づくにつれて急速に解ける性質を持ちそうです。したがって、その統合作業の終盤では比較的短期間に一つの統合されたHCD (つまりWBRA) に収束するという期待があります(👉ポスター発表)。

完成したWBAシステムはソフトウェアであるため、その構築における主な作業は、当然ながらコードの実装となります。WBAシステムを効率的に実装するためには、仕様情報であるWBRAが一定レベルまで完成していることが前提条件となります(WBRAが概ね完成する以前に実装されたソフトウェアコードの多くは、完成したWBAシステムには組み込まれないでしょう)。WBRAが完成していない現状では、主に以下の4つの目的のために先行的にコードを実装することを計画しています。

  • BRA の HCD データに基づく実装プロセスの確立(プロトタイピングによる改善)
  • 上記の実装プロセスを実行できる技術者の育成するための実装
  • ヒト (を含む動物) が解決可能な特定タスクを(神経活動との相関も含めて)脳と同様の計算機構で実行可能であることを検証する実装
  • ヒト (を含む動物) が解決可能な特定タスクにおいて、それを有効に解決できる計算機構が知られていない場合に、その計算機構を探索するための実装

今後ともWBAシステムの完成にむけて様々な障壁が待ち受けているかとは思いますが、我々としては上記ような展望のもと継続的に取り組み続けることでその完成に近づきたいと考えておりますので、ご理解とご支援をいただければ幸いです。