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第35回 全脳アーキテクチャ勉強会〜眼球運動における多様な分野の横断的知見統合を目指して〜

YouTube にて録画(一部)を配信中!

概要

脳のアーキテクチャを参考に汎用人工知能(AGI)の構築を進める全脳アーキテクチャアプローチからの研究開発では、眼球運動機能を生物学的に妥当な形で理解し実装することが必須の技術要素であるが、それにとどまらない。なぜなら、眼球運動は心理学、行動科学、生理学、解剖学など多くの分野の知見が蓄積されており、脳に基づくソフトウェアの設計を試みるには適した題材だからである。そこでWBAIでは、2018年に「AIにまなざしを」と題したハッカソンを開催し、現在、脳を使ったソフトウェアの仕様とも言える脳参照アーキテクチャの構築を進めている。 そこで本勉強会では、最初に田和辻氏より、現在のWBAIにおける眼球運動に関する取り組みなどを含めた趣旨説明を行う。その後、高橋真有先生には、微視的な視点から眼球運動系における出力座標系、および眼球運動系の神経機構についてお話いただく。さらに小川正先生からはよりマクロの視点から未知問題へアプローチする際の試行錯誤による探索と知識による問題解決に関する前頭前野の機能についてご講演いただく。その後のパネルディスカッションでは、これらの知見を統合し、人間の目に近い機能を機能的に実現するソフトウェア構築への道筋を議論する。

 

開催概要

  • 日 時:2022年6月3日(金) (18:00~21:10)
  • 会 場:オンライン(Zoom Meeting)
  • 参加者:一般50名、学生23名(概数)
  • 主 催:NPO法人 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
  • 後 援:脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理
  • 運 営:WBA勉強会実行委員会

 

講演スケジュール

 

時間 内容 講演者
17:55 開場
18:00 開会の挨拶(資料 山川 宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)
18:05 趣旨説明・講演(資料 田和辻可昌(早稲田大学)
18:35 随意性急速眼球運動の神経回路と脳内基準座標 高橋真有(東京医科歯科大学)
19:35 休憩(10分)
19:45 知的な問題解決能力の神経メカニズムを探る(資料) 小川正(京都大学)
20:45 パネル・ディスカッション 田和辻可昌(モデレーター)、小川正、高橋真有、山川宏
21:05 Closing Remark 孫 暁白(実行委員長)
21:10 終了
21:10 懇親会 オンライン

 

BRA構築方法論に基づいた眼球運動機能の知識整理


講演者:田和辻可昌(早稲田大学 データ科学センター)

概要: 全脳アーキテクチャ・イニシアティブの取り組みである「全脳にわたる機能仮説を標準的に記述するための知識ベース(i.e.全脳参照アーキテクチャ:BRA)」では,その記述様式としてBrain Information Flow(BIF)形式に基づいた構造に関する知識記述と,Hypothetical Component Diagram(HCD)に基づいた機能に関する知識記述が行われる.本発表では衝動性眼球運動や追従性眼球運動など様々な眼球運動を実現する神経回路網を対象にしたBRA構築についての近年の我々の取り組みについて説明を行うとともに本勉強会の趣旨説明を行う。

 

随意性急速眼球運動の神経回路と脳内基準座標


講演者:高橋真有(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 システム神経生理学)

概要: ヒト・サルでは、感覚入力のうち90%が視覚入力と言われ、随意性眼球運動系を用いて「対象への視線の移動」を行い、反射性眼球運動系で「視野の安定化」を図っている。脳は左右6個の眼筋を個々に制御すると冗長度(自由度)12となるが、急速随意眼球運動(サッケード)では、脳内で水平・垂直の2Dデカルト座標系が使用されており、系統発生的に古い前庭動眼反射(VOR)系では、水平・垂直に加え、眼軸周りの回旋成分が存在し、3D前庭三半規管系の座標軸が用いられている。このように従来の研究から、各眼球運動系はそれぞれに固有の出力座標系を用いていると暗黙裡に想定されてきたが、実は各系の基準座標系の実体は未だ明らかでない。本会の参加者は、主に工学系のバックグラウンドの方と伺っているので、眼球運動を理解する上で基本となるVOR系について解剖と生理を概説し、それをもとに、水平・垂直サッケード系の出力回路と脳内座標系、サッケードの発現と停止の神経機構を述べたい。

参考文献:

  1. Takahashi M, Shinoda Y. Forefront review: Brain stem neural circuits for horizontal and vertical saccade systems and their frame of reference. Neuroscience 392: 281-328, 2018.
  2. 高橋真有.眼球運動座標系とリスティングの法則の神経機構. ブレインサイエンスレビュー2022. pp.209-232,2022.丸善出版.

 

知的な問題解決能力の神経メカニズムを探る-試行錯誤によって未知問題を解決するときの前頭前野機能- (Neuronal activity in the prefrontal cortex during the course of updating knowledge for problem solution in a changing environment.)


講演者:小川正(京都大学高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi))

概要: ヒトや高等動物は未知の問題状況に遭遇した場合でも、問題解決を図る能力を持っている。当初は問題解決するための事前知識がないため、試行錯誤を行い、そのアウトカムを評価することによって、問題解決のための新しい知識を見出そうとする(試行錯誤による探索)。しかしながら、一旦、解決するための知識を獲得したら、その知識を利用して試行錯誤することなく問題解決を図る(知識による解決)。このような能力は、脳が有する最も知的な機能の1つであり、前頭前野が重要な役割を果たしていると考えられている。本研究では、新しい問題状況が何度も提供される認知行動課題を霊長類(ニホンザル)に遂行させ、サルが「試行錯誤による探索」と「知識による解決」の2種類の方略を行っているときの前頭前野ニューロン活動を記録・解析した。その結果、前頭前野ニューロンは2つの方略の状態と切り替えタイミングにかかわる情報を表現しているだけでなく、アウトカム(成功、失敗)を生じさせる要因も推論しており、知的な問題解決における上位制御系であることが示唆された。

When facing novel problems, humans and primates could seek appropriate problem solutions through trial-and-error (TE) actions and observation of their outcomes. Once an individual has obtained the knowledge to solve a problem, knowledge-based (KB) actions may be applied in a stereotypical manner to solve the problem. Problem solutions for intelligent behaviors can thus be based on the appropriate usage of TE or KB strategies. We trained laboratory monkeys to perform a target-tracking visual search task and examined the problem solution process. We recorded single-unit activity from the lateral prefrontal cortex of the monkey performing this task. The present study provided behavioral and neuronal evidence how the brain appropriately control the timing and manner of switching between TE and KB strategies during the process of updating knowledge to solve a novel problem.

 

運営スタッフ

  • プログラム委員長:田和辻可昌(早稲田大学)
  • 実行委員長:孫 暁白
  • 司会:大森隆司
  • Zoomホスト:西村由弥子
  • Zoom共同ホスト:生島 高裕
  • connpass:孫 暁白・西村由弥子
  • 広報/WBAI事務局:荒川 直哉
  • QAチャネル招待担当:孫 暁白