全脳アーキテクチャ・アプローチは、WBAIが2014年前半に提唱した全脳アーキテクチャ中心仮説で示したように、脳全体のアーキテクチャに学んで機械学習モジュールを組み上げることで汎用人工知能を構築するという点に特徴をもっている。 その後5年の間に、深層学習分野においても Life Long 機械学習、One-Shot/Zero-Shot 学習、転移学習、Disentanglement など、知能の汎用性に近づこうとする基礎的な研究が着実に進展している。こうした中、知能において汎用性を実現するには知識の整理・統合・再利用が重要であるといった見方が共有されつつある。
そこで本シンポジウムでは、今あらためて、AGI構築のために脳からまなぶものは何であるのか、それは学習アルゴリズムなのかアーキテクチャなのかダイナミクスなのか分散性なのか、いやもっと違う観点なのか?といった点に焦点をあてる。 さらに、WBAIが神経科学分野とAI/ML分野の知識を兼ね備えることの難しさを克服して全脳アーキテクチャの開発を推し進めるために開発を進めてきたオープン・プラットフォームの全貌を紹介する。 また、深層学習の進展により実現できる知的処理の範囲が大きく拡大しつつも、その限界が見えはじめてきたいま、WBAIが今後においてAGIの実現を目指して発展的に開発促進を継続する方向性を形作りたい。
シンポジウム開催詳細
- 日 時:2019年6月26日(水) 13:00~18:40
- 会 場:パナソニック東京汐留ビル 5階ホール 東京都港区東新橋1-5-1 アクセスマップ
- 定 員:280名
- 主 催:NPO法人 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ
- 主 催:パナソニック株式会社
- 協 賛:新学術領域人工知能と脳科学の対照と融合
- 協 賛:文部科学省 ポスト「京」萌芽的課題4「思考を実現する神経回路機構の解明と人工知能への応用」
- 協 賛:文部科学省 新学術領域研究(研究領域提案型) 脳情報動態を規定する多領野連関と並列処理(略称:脳情報動態)
- 後 援:一般社団法人人工知能学会
- 募集ページ:connpass
講演スケジュール
時間 | 内容 | 講演者 |
---|---|---|
13:00 | 開場 | |
13:30 | 開会の挨拶 | 森川 幸治(パナソニックラボラトリー東京 副主幹研究長) |
13:35 | 脳の基本原理をどうすれば理解できるか | 甘利 俊一(理化学研究所 栄誉研究員) |
14:05 | 理解するとは何か?– 高次元科学と記号処理 | 松尾 豊(東京大学) |
14:35 | 脳型でAGIを開発する意義 | 山川 宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ) |
15:05 | パネル討論「汎用性のために脳から何を学べるか?」 | モデレータ: 浅川 伸一 パネリスト: 松尾 豊、甘利 俊一、一杉 裕志、山川 宏 |
15:40 | 表彰式 | 市瀬 龍太郎(選定委員会代表) |
15:50 | 休憩(15分) | |
16:05 | WBA開発促進の概観 | 山川 宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ) |
16:25 | 失語症ハンズオン報告 | 浅川 伸一(東京女子大学) |
16:30 | 開発方法論 | 大澤 正彦(慶應義塾大学) |
16:35 | コネクトーム情報学(WBCA) | 岡本 洋(株式会社ドワンゴ) |
16:40 | 海馬フレームワーク | 布川 絢子(上智大学) |
16:45 | 外部連携(BriCA/MAFなど) | 高橋 恒一(理化学研究所) |
16:50 | 海外連携(Animal-AI Olympics/Project AGI) | 荒川 直哉(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)、稗田 雅昭(株式会社TOPWELL) |
16:55 | RGoal Architecture | 一杉 裕志(産業技術総合研究所 人工知能研究センター) |
17:00 | 新皮質マスターアルゴリズムフレームワーク | 三好 康祐(narrative nights) |
17:05 | 全脳アーキテクチャ若手の会 | 八木 拓真(WBA若手の会) |
17:10 | パネル討論「今後のWBAIの研究」 | モデレータ:栗原 聡 パネリスト: 梶田 秀司、高橋 恒一、山川 宏 |
17:45 | 閉会の挨拶 | 高橋 恒一(理化学研究所) |
17:50 | 準備時間(5分) | |
17:55 | ポスターセッション | ポスターセッション:浅川 伸一、大澤 正彦、岡本 洋、布川 綾子、荒川 直哉、一杉 裕志、三好 康祐、八木 拓真 |
18:40 | 終了 | |
19:00 | 懇親会 | BEER DINING 銀座ライオン 汐留店 |
講演等アブストラクト一覧
脳の基本原理をどうすれば理解できるか
講演者:甘利 俊一(理化学研究所 栄誉研究員) スライド
概要:脳は精妙で素晴らしい情報処理機構であり、そこには多くの情報の基本原理が実装されている。しかし、永年の進化を経て造られたため、基本原理を実装しはしたもの、設計思想がごたごたで悪い。情報の立場から言えば、実在の脳のごたごたではなくて、その基本原理をこそ汲み取り、理解すべきである。これを技術として実現すれば、全脳型の人工知能が実現する。また、人工知能の成功例からも原理を学ぶ努力が必要である。 本講演では、意識や心の役割に思いを馳せるとともに、深層学習が何故成功しているのか、その原理と問題点に触れたい。
理解するとは何か?– 高次元科学と記号処理
講演者:松尾 豊(東京大学) スライド
概要:ディープラーニングにより深い階層と多数のパラメータを使ってさまざまな現象のモデル化が可能になっている。一方、モデル化できることと人間が理解できることとの乖離は不可避であり、その乖離が顕著になり始めている。ところで、いったい人間が理解するということはどういうことであろうか?人間が理解する際には、言語あるいは記号の処理を必然的に伴う。それはプロセスの再現性が必要であるからであり、そして任意の状態を(それも多くの人に共有されていることが保証された形で)指し示す記号の存在が不可欠であるからである。本稿では、ディープラーニングによるモデル化と人間が理解するということの関係について述べる。
脳型でAGIを開発する意義
講演者:山川 宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ) スライド
概要: 全脳アーキテクチャ中心仮説の提唱から4年が経過し、AIの設計のために有益な神経科科学知見は増加し、深層学習のモデルやアーキテクチャが脳と似た形を取ることも見られている。こうして、脳とAIの接点も増加し続けている。そこで、知能の汎用性を支える想像や熟考といったプロセスが、脳全体のアーキテクチャにおいて、いかに情報を統合することに結びつきうるかなどについて述べることで、脳型のアプローチでAGIを開発する意義を示す。
WBA開発促進の概観
講演者:山川 宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ) スライド
概要:実在する汎用知能に学んだAGIを構築することは有力でありえるし、それに役立つ神経科学知見も着実に増加している。しかしながら、脳全体に相当する大きなソフトウエアシステムを構築する際に、どのような形で神経科学知見を取り込みうるかは未知であった。また神経科学と人工知能・機械学習の両分野にわたって専門性をもつ人材は稀有である。この数年間の活動を通じ、WBAIは、神経科学知見から脳型AGIの設計する方法論に目処が立てつつある。そこで、今後は方法論を洗練しつつ、脳型AGIの設計データを蓄積してゆくことで開発促進を行なうことについて述べる。
表彰式
WBAI活動功労賞受賞者
- 櫻田剛史
当法人の創設時にあたりNPO登記にあたっての所轄官庁との交渉、監査への立会などに貢献いただいたほか、その後の活動拡大にあたっての財務・法務・経営面などを含む多方面にわたって多大な貢献をいただいた。
WBAI奨励賞受賞者
- 吉田尚人
生存確率の最大化問題と捉えた強化学習アルゴリズムから餌の摂取、毒の忌避、エネルギー獲得といった恒常性の性質が創発することを3D仮想環境上の実験で示し、国際誌(Journal of Artificial General Intelligence)に論文掲載した。恒常性を目的とした行動の創発は、自律的な生存能力の実現、情動や感情のモデル化の基盤、手段的副目標の収斂の議論の参考などの面において脳型汎用人工知能への波及効果が大きい。
- 水谷治央
脳型人工知能の開発の基盤知識として必須の構造に関する知識を、脳神経回路(コネクトーム)から抽出する新しい研究アプローチ「コネクトーム情報学」を立ち上げ国内外の学術発表を行った。コネクトーム情報学は、WBAI内の研究活動として継続されており、波及効果が大きい。またハンズオンとオンライン講義からなる「ニコニコAIスクール」を開校、運営し、脳型人工知能開発者の育成に貢献した。
シンポジウム運営スタッフ
- プログラム委員長: 山川 宏
- 実行委員長:長田 恭治
- 司会: 佐藤 直行
- 司会スライド/タイムテーブル:佐藤 直行、山川 宏
- 会場ホスト: 森川 幸治
- 会場担当:横田 浩紀
- 広報ポスター制作:藤井 烈尚
- compass:藤井 烈尚
- 広報担当: 坂井 尚行
- ポスターセッション: 横田 浩紀、荒川 直哉
- 懇親会:生島 高裕
- 写真/ビデオ撮影:門前 一馬
- 受付:長谷川一郎