第9回全脳アーキテクチャ・シンポジウム(2024年9月18日開催)

WBAIからのお知らせ

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テーマ「基盤モデルと脳科学からのAGIへの道」


近年の基盤モデルや生成AIの飛躍的な進展を背景に、この延長線上での汎用人工知能(AGI)が実現する可能性も示唆されている。他方で、そうしたアプローチにはデータの不足などに起因する限界も存在するという見方も少なくない。
こうした状況を踏まえ、全脳アーキテクチャ研究会が進めている、脳のアーキテクチャに基づいて人の知能をリバースエンジニアリングしようとする「全脳アーキテクチャ(WBA)アプローチ」は、有力な技術的選択肢の一つである。

第1部では、全脳アーキテクチャからAGI研究を進める意義や、その具体的な進展について解説する。特に、7月に開催した初の国際ワークショップの成果を報告する。

第2部では、WBAの技術的発展に貢献した研究者を表彰する「WBA奨励賞」の授与式を行う。受賞者の研究内容と、WBA研究への貢献についても紹介する。

第3部では、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)の福島俊一氏と理化学研究所の磯村拓哉氏をお招きし、AGIに到達する道筋について議論する。脳型アプローチに限らず、AGI実現への多様な経路を考慮しつつ、脳に基づくAGIに固有の影響や課題についても討論する。


シンポジウム開催詳細


講演スケジュール

時間内容講演者
13:10開場 
13:15ご案内(資料)浅川伸一(東京女子大学)
13:19来賓あいさつ/開会のあいさつ尾藤 晴彦(東京大学)
第1部全脳アーキテクチャの現在 
13:24いま全脳アーキテクチャを進める意義山川 宏(WBAI)
13:44活動状況報告(賛助会員の募集を含む)荒川 直哉 (WBAI)
13:54WBA実行委員会の活動太田 博三(副実行委員長)
13:59第1回国際ワークショップのご報告田和辻 可昌(東京大学)
14:14VORに関与する神経核のNetwork motifsに基づいた機能分解についての仮説水口 成寛(東京大学)
14:21モチーフ構造を活用した脳型ソフトウェア向け機能階層図のボトムアップからの構築丸山 洋平(WBAI)
14:28海馬体の脳参照アーキテクチャに基づく空間認知モデルの作成中島 毅士(立命館大学)
第2部表彰式 
14:38表彰式
14:45休憩
 Breakout Room イベント1
 WBAIの活動ほか
【ブレイクルーム名: 担当】
(1)WBAIの方向性:山川宏/高橋恒一
(2)BRAデータ作成へのお誘い: 田和辻
(3)国際ワークショップの運営: 太田博三/実行委員会
第3部基盤モデルと脳科学からのAGIへの道
15:00導入 モデレータ:高橋恒一(理化学研究所)
15:00趣旨説明高橋恒一(理化学研究所)
15:10基盤モデル・生成AIの限界とAGIの可能性福島 俊一(CRDS)
15:45脳知能の統一理論に基づくAGI開発の展望磯村 拓哉(理化学研究所)
16:20パネル討論モデレータ:高橋恒一
パネリスト: 福島俊一/磯村拓哉/山川宏/宮本竜也(早稲田大学)
17:05閉会の挨拶高橋恒一(理化学研究所)
17:10Breakout Room イベント2 講師と語ろう(Breakout Room)お気軽にご参加ください
17:25オンライン懇親会皆様のご参加をお待ちしております
 

※講演者紹介文へのリンクおよび講演スライドへのリンクは以下をご覧ください


第1部: 全脳アーキテクチャの現在

いま全脳アーキテクチャを進める意義スライド

概要:全脳アーキテクチャアプローチは、脳を参照してAGI開発を進める手法です。現在主流の非脳型AI技術とは異なり、高い対人親和性を実現する可能性をもちます。WBAIはこのアプローチによるAGIのオープンな開発を促進していますが、特に重視することは、最初のAGIが出現する時点で、ヒト脳型AGIの仕様書を存在させることです。なぜなら「脳に基づく解釈可能性」を持つヒト脳型AGIは、人類と先進的AIの架け橋として、懸念される高度AIによるリスクへの対処の選択肢となりうるからです。そこでWBAIは上記仕様書のα版を2027年までに完成することを目指しています。この取り組みは、世界的に見ても独自性の高いものです。

講演者:山川宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)

活動状況報告スライド

講演者:荒川直哉(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)

概要:前回シンポジウム以降の当法人の活動

WBA実行委員会の活動スライド

講演者:太田 博三(副実行委員長)

概要:WBA実行委員会では、シンポジウムやレクチャー、国際シンポジウムなどの開催のサポートを行っております。招待講演者などの著名な研究者をお招きするなどの企画段階から実施に至るまで関わります。サポートを通じて学びの場になるなど、実用的な活動を行っております。AGIなど興味のある方の参加をお待ちしております。

第1回国際ワークショップのご報告スライド

講演者:田和辻 可昌(東京大学)

概要:脳型人工知能の構築は、人間のような問題解決能力を工学的に実現するための有望なアプローチです。このためには、脳の計算機能を理解し、模倣することが必要不可欠であり、神経科学や認知科学などの幅広い分野からの知見が必要です。私たちはBrain Reference Architecture(BRA)データおよびデータ論文の情報公開、共有、さらには統合化を目的とした初の国際ワークショップを開催しました。このワークショップでは、様々な分野の研究者が集まることで多角的な議論を通じてBRAデータの学術的価値を明らかにし、その潜在的な応用についての理解を深めることを目指しました。本発表では、この分野の進歩に大きく貢献するワークショップの成果について報告および議論します。

VORに関与する神経核のNetwork motifsに基づいた機能分解についての仮説スライド

講演者:水口 成寛(東京大学)

概要:眼球運動を構成する要素の一つであるVestibulo-Ocular Reflex (VOR)に関して様々な計算モデルが提案されている。そして、脳型ソフトウェアの実現の為にはVORに関連する脳幹神経核の機能を網羅的に、かつ他の眼球運動と整合性があるように記述・整理する必要がある。本研究では、計算機能を解釈でき、かつ繰り返し現れる、複数ノードから構成される入出力変換を伴う回路パターンであるモチーフ(Network motif)という概念を導入し、これに基づいた神経核の機能の整理を行った。また、作成した階層的な機能分解に基づき、いくつかの神経核において新たな解剖学的構造の仮説を提案する。ポスター発表では、これらの提案の詳細と妥当性についての議論に加え、現状提案されている、VORに関わる神経核の解剖学的構造に基づいた、情報処理のコンポーネント図の問題点についても議論を行う。

モチーフ構造を活用した脳型ソフトウェア向け機能階層図のボトムアップからの構築スライド

講演者:丸山 洋平(WBAI)

概要:脳の神経活動やその機能の多くが未解明である現状を踏まえ、脳型ソフトウェアの設計に向けた機能階層図構築には、ボトムアップとトップダウン設計を並行して行う事が有効です。ボトムアップ設計では、対象とする回路内の神経核に対応する機能をその接続に基づいて合成し、階層化していきます。一方、トップダウン設計では、対象とする領域で要求される機能を部分に分解していきます。本研究では、扁桃体の恐怖条件付け回路を対象に、このボトムアップ設計に新たにモチーフを導入しました。モチーフは神経回路内に現れるパターンであり、その構造に基づいて機能を有する為、神経核のまとまりに、対応する機能を自然に付与できる事が期待されます。

海馬体の脳参照アーキテクチャに基づく空間認知モデルの作成スライド

講演者:中島 毅士(立命館大学)

概要:それまでに未経験の劇的な環境変化に対しても、自己の信念を適切に更新することは、今後の適応的な自律エージェントに必要な能力と考えられる。認知科学の分野では、心理学者のトールマンが環境の変化に対して柔軟なナビゲーションを可能にする空間の脳内表象である認知地図 (cognitive map)の概念を提唱した。大脳辺縁系に位置する海馬体は、のちの研究で場所細胞や格子細胞が発見され、この空間地図を支えているとされている。本講演では、構造的に海馬体のBrain Information flow (BIF)と整合の取れた空間認知モデルを確率的生成モデルの枠組みで作成し、このモデルの自己位置推定機能の評価について説明する。

第2部: 授賞式

WBAI功労賞2024

受賞者:RAWLINSON, DAVID (Cerenaut AI)

授賞理由:脳型AI研究において長年にわたり継続的な貢献を行ってきました。特に、脳機能と忠実に対応した生物学的に妥当なアプローチを追求し、革新的な神経アーキテクチャの探求を行っています。人間のような推論や少数ショット学習を可能にする構造の研究は、現在のAI技術の限界を超える可能性を示しています。また、最近におけるARC チャレンジのような挑戦的な問題への取り組みは、単純なデータ量の増加では解決できない課題に光を当てています。これらの研究は、脳型汎用人工知能の技術開発を大きく促進し、高い波及効果をもたらすと期待されます。よって、本賞を授与いたします。

Reason for the award: Dr. Rawlinson has made continuous contributions to brain-inspired AI research over many years. Specifically, he pursues a biologically plausible approach that faithfully corresponds to brain functions, exploring innovative neural architectures. His research into structures that enable human-like reasoning and few-shot learning demonstrates the potential to overcome the limitations of current AI technology. Additionally, his current work on challenging problems, such as the ARC Challenge, highlights issues that cannot be solved by simply increasing the amount of data. This research is expected to advance significantly the technological development of brain-inspired artificial general intelligence and produce significant ripple effects. For these reasons, we present this award.

第3部:基盤モデルと脳科学からのAGIへの道

導入:パネル討論趣旨説明[スライド]

講演者:高橋恒一(WBAI)

基盤モデル・生成AIの限界とAGIの可能性[スライド

講演者:福島 俊一(CRDS)

概要:本講演では、現在の基盤モデル・生成AIが抱える問題点(限界)を指摘し、その克服に向けた取り組み動向を概観することで、AGIへの可能性や課題を論じる。現在の基盤モデル・生成AIは、それ以前の目的特化型AIと比べて、高い汎用性・マルチモーダル性や対話的生成能力を示している。しかし、大規模深層学習に基づく確率モデルであることから、資源効率、身体性(実世界操作)、論理性・正確性、安全性・信頼性、自発性などの面で限界がある。個別の対策が積み上げられつつあるが、基本原理の面から限界克服を目指す取り組みの重要性が増している。

脳知能の統一理論に基づくAGI開発の展望スライド

講演者:磯村 拓哉(理化学研究所)

概要:本講演では、変分原理に基づく脳知能の理論について紹介する。自由エネルギー原理は脳の知覚・学習・行動を外界のベイズ推論として説明する理論である。近年の研究により、どのような神経回路のダイナミクス(神経活動やシナプス可塑性)も潜在的に自由エネルギー原理に従っていること示唆されている。この等価性に基づき、神経活動データから脳が持つ生成モデルをリバースエンジニアリングして脳予測モデルを構築する方法を解説するとともに、実データに適用し神経回路の自己組織化を定量的に予測した例を紹介する。また、変分原理に基づく脳理論とデータ駆動型脳モデルのAGI開発への応用可能性について所見を述べたい。

パネル討論

モデレーター:高橋恒一

パネリスト:福島俊一、磯村拓哉、山川宏、宮本竜也

運営スタッフ


  • プログラム委員長: 山川宏(WABI)
  • 実行委員長:西村由弥子
  • 副委員長:太田博三
  • 司会:浅川伸一(東京女子大学)
  • 司会スライド/タイムテーブル: 浅川伸一、山川 宏
  • 広報:荒川直哉(WABI)
  • Connpass:太田博三
  • Zoomホスト:片山立
  • Zoom共同ホスト:荒川直哉、西村由弥子、太田博三
  • グラフィックデザイン:藤井烈尚