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2022年の幕開けにあたって

皆様、あけましておめでとうございます。

汎用人工知能(AGI)は単なる道具を超えた技術であり、私達の未来における選択肢を飛躍的に拡大させるでしょう。NPO法人全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI)は、2015年8月の創設以来、2030年頃の完成を目処に脳全体のアーキテクチャに学んで人間のようなAGIを創るための教育事業と研究開発事業を長期的に促進しています。

昨年は、WBAIが蓄積してきた技術を広めるためのWBAレクチャーを開始し、「認知機能の脳構造に沿った分解手法」、「脳をまねた記憶のアーキテクチャを動かしてみよう!」、「脳型機械学習モデルの構築体験記」をテーマとした3回を実施しました。またこれまで通り、脳とAIをまたぐ人材を育成するためのWBA勉強会として、「脳の一般原理に基づく認知発達と発達障害」、「Biologically Plausible Agents Interactionは有望か」をテーマとして2回を実施しました。

AGIのもたらす大きな影響を踏まえ、第6回WBAシンポジウムでは、「人と共存する脳型AIを目指して」をテーマに開催しました。その中で、稲見昌彦氏、大屋雄裕氏をお招きし、栗原聡氏がオーガナイズした、パネル討論「私たちはいかに上手にAIの手のひらに着地できるのか」では、自律性や倫理性の面でヒトを凌駕した高度なAIがヒトとヒトの間に入り込んだ状況を前提として未来社会のあり方についての議論しました。

WBAの活動への貢献を表す授賞として、脳の参照アーキテクチャ(BRA)を構築する研究を最初に主導的に実践した布川絢子氏にWBAI奨励賞を授与しました。また広報活動などで貢献のあった坂井尚之氏、WBA勉強会実行委員会の創設などに貢献のあった上野聡氏に活動功労賞を授与しました。さらに生物学的妥当性の評価方法の発展に刺激を与えたJeremy Gordon氏にモデラソン重要功労賞を授与しました。

開発的な側面に関しては、作業記憶の実装をテーマとする第5回WBAハッカソンを5月から10月にかけてオンラインで開催しました。

昨年(2021年)に限るものではありませんが、こうした諸活動は、賛助会員、WBA勉強会実行委員会、開発部、顧問、連携組織など多くの皆様のご支援・ご協力を賜ることで継続されており、改めて関係者の皆様に熱く御礼申し上げます。

さて2022年の新年を迎え、2030年まで残すところあと8年となったこの機会に、昨年に描いた技術的なWBAロードマップに、2017年に掲げた基本理念を重ね合わせてみました(下図参照)。WBAアプローチを体現するBRA駆動開発[1]では、脳の解剖学的構造を蓄積した脳情報フロー (BIF) の上に、様々に計算機能の仮説としての仮説的コンポーネント図 (HCD) を付与し、それを参照してソフトウエアを実装します。こうして、BIF、HCD、ソフトウエア実装のいずれにおいても、部分的な構築からそれらを統合した脳全体へと段階的に発展させれば、2030年ころには概ね脳全体に対応するソフトウエアが構築できるはずです。その時点において、まだAGIの完成に残された課題が現れているかもしれませんが、ほぼAGIに到達しているかもしれません。ですから今後、WBAIとしては、オープンな開発や、コントリビュータによるBRA設計 (主にHCDの作製・統合) の促進などを通じて、いかにして「人類と調和した人工知能のある世界」というビジョンに資する活動として発展させるかが大きなテーマとなります。

図: WBAIの基本理念と開発ロードマップ

世界に目を向ければ、100近い組織がそれぞれのアプローチからAGIの構築を目指しています[2]。例えば昨今において深層学習分野で発展したTransformerやFoundation Modelのような大規模機械学習の延長線上でAGIの達成を目指す組織も少なくありません。それらを含めいずれかの組織が2030年以前に先んじてAGIを構築できるかもしれません。しかしながら、唯一実在する汎用知能(GI)である脳からそのエッセンスを引き出す方法論を確立したWBAアプローチは、前述ロードマップのように着実に開発を進展させうる点で有望な選択肢であると信じております。また仮に脳型でないアプローチに先を越されたとしても、対人インタラクションへの応用、精神疾患などのモデル化、マインドアップローディングの器といった脳型AGIならではの価値を提供しうるでしょう。

2022年において私たちは、BIF作製の本格化とHCD作製の拡大を中心に活動を活性化してゆきたいと考えております。本年も、多くの皆様から一層のご支援、ご愛顧のほど賜りたくよろしくお願い申し上げます。

2022年元旦

特定非営利活動法人 全脳アーキテクチャ・イニシアティブ 一同

関連資料:

  • [1] Yamakawa, H. (2021). The whole brain architecture approach: Accelerating the development of artificial general intelligence by referring to the brain. Neural Networks: The Official Journal of the International Neural Network Society. https://doi.org/10.1016/j.neunet.2021.09.004
  • [2] Fitzgerald, M., Boddy, A., & Baum, S. D. (2020). 2020 Survey of Artificial General Intelligence Projects for Ethics, Risk, and Policy. Global Catastrophic Risk Institute Technical Report, 20(1). http://gcrinstitute.org/papers/055_agi-2020.pdf

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