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第8回全脳アーキテクチャ・シンポジウム(2023年8月1日開催)

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テーマ「生成AI時代における全脳アーキテクチャ・アプローチの開発とその意義」


近年、大規模生成AIが急進展し汎用人工知能(AGI)への到達が現実味を増し、それは現在から未来にむけての人類社会に対して良くも悪くも大きな多大な影響を与えるでしょう。それは脳全体のアーキテクチャから学んで人間のような汎用人工知能を構築することをめざす全脳アーキテクチャ(WBA)アプローチから開発される脳型AGI、その社会的な意義に対しても大きなインパクトがある。そこで本年のWBAシンポジウムでは、こうした変化に対する、私たちWBAIが進もうとしている方向性と、現在の議論状況を皆様と共有する場としたい。

第1部では、主に、生成AIが、我々が用いているヒト脳型AGIの開発手法を加速し、その開発ロードマップが短縮されつつあることを紹介します。

第2部では、WBAの技術的発展に貢献のあるかたを表彰する奨励賞、当法人の活動に貢献のあったかたを表彰する功労賞の授賞式を執り行います。

第3部では、生成AIの発展で急速に距離が近づいた超知能時代の到来を踏まえ、そうした世界においてWBAアプローチで構築する人と親和性の高いヒト脳型AGIを存在させることの意義についてパネル討論等をふくめて議論します。

 


シンポジウム開催詳細

 


 

講演スケジュール

時間 内容 講演者
13:10 開場
13:15 ご案内(資料) 浅川伸一(東京女子大学)
13:20 来賓挨拶/開会のあいさつ 未定
第1部
13:25 活動状況報告 荒川直哉(WBAI)
13:35 WBAI開発のロードマップと自動化 山川宏(東京大学/WBAI)
13:50 BRA駆動開発における自動化に向けた取り組み 芦原佑太(日本大学)
14:00 大規模言語モデルを用いた神経科学論文からの解剖学的神経投射の記述を抽出するためのプロンプトの考案 堀口 維里優(東京大学)
14:05 HCDの自動作成/統合/評価に向けた取り組み 田和辻 可昌(東京大学)
14:15 Language Agent Network (LAN)の提案とBRA駆動開発への活 宮本 竜也(早稲田大学)
14:20 新皮質SHCOM 鈴木 雄大(東京大学)
14:25 海馬モデルの実装 谷口 彰(立命館大学)
第2部
14:30 表彰式 功労賞受賞者(2名)
奨励賞(1名)
14:45 休憩(15分)
自由参加ディスカッション(5テーマ)
1・2部登壇者
実行委員
第3部
15:00 趣旨説明 高橋恒一(理化学研究所)
15:10 脳型AGIの存在意義と「生命革命」シナリオ 山川宏 (WBAI)
15:35 人工主体とのインタラクションと生命の「脆さ」 ─ AIと共生する未来に向けて 田口茂(北海道大学)
16:10 「AIの遺電子」における脳型AGIとAI社会 山田 胡瓜(SF作家)
16:45 パネル討論
よき超知能時代に向かうためにヒト脳型AGIが果たすべき役割
モデレータ:高橋恒一
パネリスト:田口茂、山田胡瓜、山川宏
17:30 閉会の挨拶 高橋恒一(理化学研究所)
17:35 Closing Remark(お知らせ) 森岡大成(副実行委員長)
17:38 自由参加ディスカッション
※講演者紹介文へのリンクおよび講演スライドへのリンクは以下をご覧ください

 

第1部: 加速する全脳アーキテクチャの開発

WBAアプローチの開発における利点は、以前から述べているように、AGIを共同開発する基盤として脳の構造を利用して開発を加速できる点にあります。とくに脳を参照することでハイレベルでの技術統合を先送りせずに取り組める点にあります。その際に、人間に関わる諸分野の科学知見を活用でき、合意しうる認知アーキテクチャであることで開発の発散を防げる利点もあります。

そしてその利点を体現する方法論として脳参照アーキテクチャ(BRA)駆動開発を生み出しました。BRA駆動開発では、ソフトウエア仕様情報として、まず神経科学知見を脳情報フロー(BIF)として抽出し、それに整合するように仮説的なコンポーネント図 (HCD) を作成し、そのHCDに基づくソフトウェア実装というプロセスから構成されます。逆に作成されたBIF、HCDソフトウェアの生物学的妥当性を評価するプロセスを標準化しています。

これら開発と評価のプロセスはこれまでも自動化が進められてきましたが、大規模言語モデル(LLM)の進展により、多くの部分についてさらなる自動化により開発を加速できる可能性が高まってきました。例えば、LLMを用いて、論文から自動的に必要な情報を抽出したり、ソフトウェアコンポーネントの動作に関わる言語的仕様から動作を模擬させるなどです。第1部では、こうして生成AIの恩恵をうけて加速するBRA駆動開発やそのロードマップについてご紹介いたします。

 

活動状況報告スライド


講演者:荒川直哉(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)

概要:前回シンポジウム以降の当法人の活動

 

WBA開発のロードマップと自動化スライド


講演者:山川宏(全脳アーキテクチャ・イニシアティブ)

概要:脳アーキテクチャ(Brain Reference Architecture: BRA)を参照してAGI開発を行うBRA駆動開発の進行状況を紹介し、さらに、大規模言語モデルを利用して開発を自動化する技術により、このプロジェクトの進行速度が加速していることを述べます。そして、脳型ソフトウエアの設計情報となる脳全体のBRAである全脳参照アーキテクチャ(Whole BRA: WBRA)の開発についても紹介し、その数年以内の完成を目指す技術ロードマップについても説明します。

 

BRA駆動開発における自動化に向けた取り組みスライド


講演者:芦原祐太(日本大学)

概要:全脳アーキテクチャで進めているBRA駆動開発では、大規模言語モデルを活用した開発の自動化を目指している。本発表では、自動化に向けて具体的に取り組んでいるプロジェクトの紹介を行い、今後のBRA駆動開発の展望について述べる。

 

大規模言語モデルを用いた神経科学論文からの解剖学的神経投射の記述を抽出するためのプロンプトの考案スライド


講演者:堀口 維里優(東京大学)

概要:BIF情報を神経科学論文から抽出するにあたって大規模言語モデルを用いる手法を考案する.BRA駆動開発の自動化のフレームワークおよび開発状況の現状について紹介する.

 

HCDの自動作成/統合/評価に向けた取り組みスライド


講演者:田和辻 可昌(東京大学)

概要:神経科学的構造に対し脳の機能を割り当てる方法論として、Structure-Constrained Interface Decomposition (SCID) 法がある。このSCID法に基づき、構造と機能を記した脳型アーキテクチャの設計図ともいえる Hypothetical Component Diagram (HCD) が作成される。本発表では、これまで人手で作成されてきた HCD を自動で作成・統合・評価する方法について紹介する。

 

Language Agent Network (LAN)の提案とBRA駆動開発への活用スライド


講演者:宮本 達也(早稲田大学)

概要:Language Agent Network(LAN)という概念の提案とその応用について紹介する。LANは、言語処理システムによって実行されるエージェントをネットワークとして組み合わせて、全体として動作可能にしたシステムとして提案されており、様々なタスクを実行できることが期待されている。また、このLANをBRA駆動開発に応用し、BRA駆動開発でスタブ開発を行う試みについても述べる。

 

新皮質SHCOMスライド


講演者:鈴木 雄大(東京大学)

概要:SHCOM(Supplemented human connectome with other mammals’ )とは、ヒトの脳内のメゾスコピックレベルでの領野間における接続の有無、(平均的な)軸索数、その方向(新皮質においてはフィードバック・フィードフォワード(FF/FB)の向き)についての最も蓋然性の高い仮説である。それは、ヒトおよび人以外の哺乳類のコネクトームなどの情報を統合することで得られる。本発表では、新皮質SHCOM作成に向けた取り組みの現状を紹介する。

 

海馬モデルの実装スライド


講演者:谷口 彰(立命館大学)

概要:空間認知を司る脳部位として知られている海馬体を参照した確率的生成モデルの構築について紹介する。また、構築したモデルを移動ロボットに実装した際の自己位置推定タスクへの有効性について述べる。

 

 

第2部: 授賞式

 

WBAI功労賞2023


受賞者:孫 暁白(全脳アーキテクチャ実行委員会)

授賞理由:授賞理由:全脳アーキテクチャ勉強会実行委員会において、これまでで最も若手の統括者(2022年)として、シンポジウム・勉強会などのイベントの運営を責任感をもって円滑に主導頂き、後任の育成にも貢献頂きました。とくに活動のオンライン化が定着するなかで、新たなデジタルツールの導入を受容することで、運営の効率化/活性化にもご貢献いただきました。

 

受賞者:上林 厚志(元監事)

授賞理由:授賞理由:当法人の監事(2020-2021年度)として、保有財産及び理事の業務執行状況の監査を担当いただいた。また、継続的に運営委員会にご参加を頂き、とくにビジネス的な観点などからアドバイスを頂くなど多大な貢献をいただきました。よってここにその功績を称え表彰いたします。

 

WBAI技術奨励賞2023


受賞者:Sun, Yuwei (The University of Tokyo)

授賞理由:彼は汎用AIの中心的な能力である「知識再利用能力」に関する研究において、分散型ニューラルネットワークのアーキテクチャレベルに関わる新しいアルゴリズムを提案してきている。特に、脳のメカニズムとも密接に関係するグローバルワークスペース理論を取り入れるなどにより、AIと神経科学の交差点に波及効果をもたらしている。さらに発展的なメタラーニング研究の方向性も示しており、将来性を含めて高く評価しました。

In his research on knowledge reuse capability, a central one to AGI, he has proposed a new algorithm for distributed neural networks at the architectural level. In particular, by incorporating global workspace theory, which is closely related to brain mechanisms, he has promoted the intersection of AI and neuroscience. We appreciate his future potential as well as his showing the direction of further meta-learning research.

 

 

第3部:よき超知能時代に向かうためにヒト脳型AGIが果たすべき役割

私たちWBAIは、ヒト脳型AGI開発の促進を通じて、人類と「人類と調和した人工知能のある世界」というビジョンの実現を目指しています。これまでにも、ヒト脳型AGIが人間との親和性が高いことを活かし、人間との対話を必要とする領域や精神疾患のモデル化等に利用することを提唱してきました。今後、人間の行動や神経活動、脳内解剖学的情報を捉える技術が進化すれば、これらを活用したデジタルクローンやマインドアップロードにおいても脳型AGI技術は役立つでしょう。
一方、大規模生成AIの進化により、AGIだけでなく、その先にある自律性を備えた超知能が現れる可能性も高まっています。そうしたAIが人類にもたらす影響は大きなものですが、それらを完全に予測したり制御したりすることには限界があり、時に望ましくない結果を生じさせるリスクもあります。こうした中で私たちはAIが遍在する時代の現実を無視したり過度に恐れたりせずに把握する必要があります。その上で、この変化に適応する道筋をさぐる必要がありますが、その答えは簡単に見つかるものではありません。ですから、時に既存の価値観や倫理観から一歩踏み出す覚悟をもって、AIとの調和を目指す建設的な議論を進めていくことが重要です。
こうした背景から、今回のパネルでは、哲学者の田口茂氏とSF作家の山田胡瓜氏を招き議論を行います。こうした議論を通じて、、多くの人々がAIと共存する未来についてより関心を持つきっかけになることを期待しています。そして、特にWBAIでは、ヒト脳型AGIを適切な役割を持たせて活用方法を探求するための契機としたいと思います。

 

パネル討論趣旨説明スライド


講演者:高橋恒一(WBAI)

 

脳型AGIの存在意義と「生命革命」シナリオスライド


講演者:山川宏(WBAI)

概要:AGIやその発展として出現するであろう超知能が人類にもたらす大きなリスクを回避するため、AIと人類の価値観などの整合性を調整するAIアライメントの研究が急速に活性化しつつあります。BRA駆動開発により構築された脳型AGIは、人間と親和性の高い超知能を生み出します。それは、人類が人とは異なるように思考や動作をするAIと対峙する際のインタフェース等の様々な形で役立つことが予想されます。それゆえWBAアプローチ以外の方法で先にAGIや超知能が実現したとしても、脳型AGIが果たすこれらの役割は、引き続き人類にとって有用であり存在意義をもつことになるでしょう。さらに山川の研究者としてより踏み込んだ見解として、「生命革命」というシナリオについても紹介します。

 

人工主体とのインタラクションと生命の「脆さ」──AIと共生する未来に向けてスライド


講演者:田口 茂 (北海道大学)

概要:他人の「心」は身体のなかに隠れているのではなく、身体の振る舞いや他者との相互作用のなかに直接「見える」という主張がある。現象学などに見られる「直接社会知覚」(direct social perception: DSP)と呼ばれる考え方である。これにもとづくなら、もしAIやロボットが人間と区別のつかない振る舞いを(ある一定程度以上に)実現できたら、そこに相互作用しうる一人の「主体」を見ざるをえないということになる。本講演では、DSPを可能にする条件として、エナクティヴな間主体的ループの受動的発生を指摘し、このレベルと能動的推論のレベルがAIにおいては乖離することを論じる。この段階から、人工主体との交流がさらに一歩深まるには、人工生命的な「脆さ」「不安定性」が必要になると考えられる。「死」を内包した「脆い生命的AI」が生まれる未来と、そうでない未来とを区別しつつ、AIと共生する未来について考えてみたい。

 

「AIの遺電子」における脳型AGIとAI社会[スライド]


講演者:山田 胡瓜 (SF作家)

概要:漫画「AIの遺電子」を作る上で考えたAIの区別や、作中に登場する脳型AGIの役割、AIにまつわる社会的なルールなどを紹介し、それを考案した背景などを解説します。
また、脳型AGIやAI社会への期待や課題について、未来のシナリオなどについて、作家的な視点から発想して考察してみます。

 

パネル討論


モデレーター:高橋恒一

パネリスト:田口茂、山川宏、山田 胡瓜

 

運営スタッフ


  • プログラム委員長: 山川宏
  • 実行委員長:生島高裕
  • 副委員長:森岡大成
  • 司会:浅川伸一(東京女子大学)
  • 司会スライド/タイムテーブル: 浅川伸一+山川 宏
  • 広報:荒川直哉
  • Connpass:斉藤伶奈、補助:生島高裕
  • Slack運用:斉藤伶奈
  • Zoomホスト:生島高裕
  • Zoom共同ホスト:荒川直哉、西村由弥子、森岡大成、斉藤伶奈
  • グラフィックデザイン:生成AIによる作成(山川 宏)